「ルック…。もうそろそろです」
「………天魁星に会うのがですか」
「ルック、そんなに嫌そうな顔をするものではありませんよ」
「…あの星見を取りに来たいかれ野郎が天魁星だなんて、僕には信じられないですね。運命とやらは頭おかしいんじゃないんですか」
「黙っていたことは謝ります。しかし…」
無表情だったその顔に、哀愁を漂わせレックナートは言った。
「彼はいつも傍にいた友人を、自らを助けるためにと犠牲になり姉に捉えられてしまったのですから…」
「同情しろとでもいうんですか」
「はっきり言えばそうです」
表情を消し、閉ざされた目でルックを見る。
「あなたは天間星です。天魁星を補佐する者です。それなのにあなたときたら、まるでやる気がありません。同情でも何でも良いですからきちんと仕事をするのですよ」
「…建前を立てた意味が無くなってますよ、レックナート様」
運命はすでに歪みを始め
そんなやり取りをしたのは、3日前の出来事だったとルックは記憶する。そして今、ルックはレックナートと共に解放軍に訪れていた。
レックナートはその場を去り、ルックが口を開こうとした瞬間。
「ルック―――――!!!」
ドゴッ
「かはっ」
ルックに抱きつこうと飛んできた解放軍軍主にして天魁星であるベオークに、ルックは膝蹴りを鳩尾にくれてやった。
「とっぱじめから何さらすか」
「再会の喜びを全身で示そうかと」
これのどこが傷心だって?その思いを隠すこともせず、わき上がる憤りに手にした杖でベオークをつついた。
「いたっ痛いよルック!心なしかその杖尖ってない?」
「使い道は多い方がいいだろ」
ふ、と。ルックはベオークが真の紋章を宿していることに気がついた。
「あんた、それ……!!」
「あ、これ?テッドに貰ったの」
「そんなことどうでもいい!」
ルックは苛々と髪をかき回し、ピタと全ての動作を止めた。
「あんた」
「ベオークだよ、ルック」
「お前、僕に近付くな」
「うえっ!・どうしてルック!僕ルックのストーカー始めようと思ってたのに!」
「死ね」
俯いたルックは少し顔を上げ、髪の隙間から鋭くベオークを睨んだ。
「おいおい。来て早々お熱いねぇお二人さん。でもいい加減にしねぇとみんな引いてんぞ」
制止の声が掛かった。その声に皆がそちらを向く。
ルックは目を見開きその人物を凝視した。どうして。その思いは巡る。
緩くかけられたスカーフ。青の服。茶の髪。脇に持たれた新聞。そして、静まり変えたホールで唯一響くラジオの音…。
『おおっとスノウ18世抜かれた――――!!まぁいつもの事ですネ』
「なに――っ!?」
登場したその人物はラジオの実況に叫び声をあげた。
「また負けたんだ、テッド?」
「…いつもの事さ」
「…あんた、ウィンディに捕まってたんじゃなかったの?」
「ああ…色々あってな……」
くしゃ、と新聞を握りしめ、テッドは笑った。
どこか、青い顔をして。
「テッド、あんた魂喰らいなんてなんであいつにあげちゃったわけ?」
「テッドずるい!ルック、僕も名前で呼んでよー」
「………てゆーか、何であいつ…」
「それはなぁー。オレもそこだけは解せないんだよなー」
じと、と二人から視線を貰う。バッと両の手を広げ。
「ルック、もっと見ていいよ!!」
「「…………………」」
沈黙。それが生まれ、破ったのはルックだった。
「やっぱり納得いかない!なんで魂喰らいは大人しくしてるのさ!?」
「制御するのにオレが何年かかったと思ってんだ!150年だぞ!?おいソウルイーター!今からでも遅くない、暴れろ!!」
真の紋章の暴走を促す問題発言をするルックとテッド。
そう。ベオークは宿して間もない真なる紋章、生と死を司る紋章を苦もなく宿し、あまつそれを制御している。それを300年宿したテッドと、新なる風を今も宿しているルックとしては激しく納得のいかない。
“なぜこんな馬鹿が!!”
ベオークの頭の回転が速いことは知っている。しかし、その使い道を自らの娯楽のためにのみ発揮されるのだ。
「あの、よろしいですか?」
終わりそうにないやりとりを止めたのは、解放軍軍師のマッシュ・シルバーバーグであった。
「ああ、悪かったね。この馬鹿に無駄に時間を使っちゃって」
「いえ…所であの石版ですが」
「ああ、部屋をくれれば僕が運ぶよ」
転移。この場に訪れた時にも使用されたその術。それならば重量たっぷりの石版を容易く運ぶことができる。
「そうですね、ではここの丁度真下の部屋を使って下さい」
「わかった」
ルックは石版に近付くと、どっこいしょ、とでも言うように石版を背に背負った。悠々とした足取りで階下へ続く階段へと向かっていった。後ろから見ると、背負う対象で背負った人物の姿は覆い隠されていた。
「………」
それを見なかったことにして、マッシュは解散を告げた。