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僕と君との糖度分析。
「僕ってお前に甘いよなぁ」
「…………」
机に肘を乗せ、掌に顎をくっつけぼーっとしていたルックが唐突に呟いた。
そう、あれは独り言に限りなく近い、しかし、これから始まる問答の議題となる一言だった。
僕との君の糖度分析。
ルックのその呟きに数秒思考を停止させていたベオークの再起動が完了した。
「えーと、ハバネロよりは甘いよね。たぶん」
「何だそれは。チクロよりも甘いだろう」
「有害だよ、ルック」
ルックは間違っても有毒になるほど甘く接してくれないと確信を抱くベオーク。砂糖の粒子一粒でさえ「甘すぎやしないか」と疑念を抱くほどであるというのに、チクロなど。
「ねぇルック。ルックは僕にどんなふうに甘いの?」
「とりあえずお前を視界に入れても殴らない程度には」
「辛いよ!!すごく辛いよそれ!もしくはしょっぱいでも可!」
「どこがだ。お前ごとき矮小な存在がこの世界にいることすら疎ましいのに、「見る」ことを許可しているんだよ?甘ったるくてしょうがないだろう」
ルックはこれで、「自分はベオークに甘い」と認識しているという。甘ったるいとすらいう。
「ひどいよルック!ちょっと「今、君にすごくキスしたい気分なんだ」とか言ってくれないかなぁとか期待したのに!」
「ゴミが」
ベオークはこれでも、「自分はルックが大好き」と認識しているという。愛しているとすらいう。
ベオークはかくも、何故にルックを好きになったのか。一目惚れ以外の理由が存在していいのだろうか。いいや良くない。
言われた本人が幸せそうなのはさておき、ルックの発言は至って厳しいものである。だが「甘い」と自主的に呟いたことからもわかるように機嫌がいい。それも1年に1度あるかないかくらいの最大級の機嫌のよさだ。なにしろベオークはこの日、まだ殴られていなかった。殴られるどころか小突かれてもいない。怒鳴られてすらいない。
「僕はね、ベオーク」
「うぇ!!??」
「なにさ」
「い、いや、ルックが僕の名前を呼んだからちょっとばかり動揺してしまっただけだよ」
「僕はね、低能軍主」
「なにもやり直さなくても」
「弱い奴が嫌いなんだ。精神的にね。その面で言ったらお前は完璧。完璧というか強か過ぎて腹が立つ」
「わぁありがとう」
「今日はたまたまウジウジウジウジウジウジウジウジしているやつを見かけたものだから、お前を見てちょっと気分が落ち着いた」
「マジで!」
「だからあらん限りのお前への優しさを振り絞って膨張させて肥大させて接しているんだ」
「僕って幸せ者だね!」
はぁ、とわざとらしくため息をついて、ルックはあごを上げてじとりとベオークを見下ろす。
「本当に、強かでウザい」
「ウジウジしてるのが嫌だって言ったじゃない」
「そいつを99人とお前を足して20で割ったら丁度いいかもしれない」
「何を仰るルックさん。僕はルックをそんな風には思わないよ!100%ルック、純ルック仕様テイクアウトで1万人お願いします」
「ハルモニアに行け」
こんな突っ込みができるほどには、ルックも十分すぎるほど強かではあるはずなのだが、当の本人にそんな自覚はない。弱いとも思っていないが、自分基準で己が標準より若干上くらいの認識しかないのだ。
大いに間違った認識なわけだが。
「ねぇルック」
「なんだ」
「キスしてとは言わないから、せめて褒めて!」
ずいぶんとハードルを下げたものだ。
「………お前ごとき塵芥にも及ばない下等な存在がよくもまぁウン万人集めてここまでやったと思うよ。歴代の天魁星で間違いなくワースト1ぶっちぎりの性格だろうに。腐っても鯛。間違いでも天魁星だよ」
「間違いで天魁星になったわけではないと思うけれど、ありがとうルック。ルックにそこまでいわせた人間は僕だけだよ…」
「お前に称号をあげよう」
「ありがとうルック!」
「ドM」
ニッコリ笑ってベオークはそれを享受したが、一つ提案した。
「その称号の頭に、「ルックには」ってつけていい?」
ルックはその案を棄却し、代わりに「総じて」をつけることを許可した。
訳わかんねぇ…!!
文頭の「僕ってお前に甘いよなぁ」を思いついてしまったばっかりにこんなぐだぐだに。