Ruu様が配布なされているお題、
「狂気的な六のお題」
をお借りしました。
配布元はこちら。
I want to make you the wound.
〜私はあなたに傷を作りたいと思います〜
「いいですか?」
にっこりと、マクドールはルックに微笑みかけた。
「それは、実行する前に言う科白だよ」
「だってルック、抵抗しないから事後承諾でもいいかなって」
悪びれもなく、笑顔を保ったまま言う。それに呆れたようにため息を一つもらして、ルックは突き刺されたナイフを取るように言う。それをあっさりと、マクドールは拒否した。
「え?嫌だよ。折角なんだし」
「僕はキリストじゃないんだ。こんな風に縫い止められても、誰の罪も贖う気はない」
そう、ルックは十字架に掛けられた聖者の如く、両の手を広げ掌をナイフで壁に止められている。座っているため、足でこそ自由であるが。
「でも、僕は楽しいからそれだけで十分」
「マクドール、早く」
「…………」
「…なに?」
突然沈黙するマクドールに、ルックは訝しんで問いかける。口を開いたかと思えば、
「名前で呼んだら、取ってあげる」
なんて、言うものだから、ルックはルックで「へ?」なんて間抜けな声を出してしまった。
「呼んでみてよ。僕の名前」
「あ…え……」
「ルック」
さぁ、と。マクドールは促す。たたえたままの笑みは、目が細められどこか脅迫をしている風に見えなくもない。
どうしようかと狼狽えていたルックは、意を決したように言う。
「名前知らない」
「………」
マクドールは沈黙のまま、にっこりと、ゴツンとルックの頭に拳を落としてその場を後にした。
遺されたルックはボソリと。
「 」
その名を呼んだ。
「…知らないわけ、ないじゃないか」
〜あなたは死ぬだけで良いのです〜You only have to die.
静かな笑みを湛え、マクドールは椅子に腰掛けていた。視線の先には荒い呼吸でしゃがみ込むルック。If you hope, I am killed with pleasure by you.
〜あなたが望むなら、私は喜んであなたに殺されます〜
I want to kill you.
そういう、つもりはないのだけどね。
「殺したいって、どうして思わないのかわからないな」
「どうして?」
「僕は時々思うから」
「誰かを殺したいって?」
「お前を殺したいって」
そうなのか。とは思う。まぁいつも色々と虐めているし当たり前かな。
そして、ルックはぼそりと言葉を紡ぐ。
「このままずっと変わらないなら…いっそと思ってしまうよ」
「変わらないと思うなぁ」
言うと、ルックはいつもの冷めた目を僕に向けて、少しするとため息を吐いて目をそらした。
「なに、ルック。怒ったのかい」
「なんで」
「さぁ。でも、今は機嫌悪そうに見えるから」
「いつも通りだろう」
「こう、微妙な変化があるんだよ」
ルックは「知らない」なんて言ってさっさと行ってしまった。
僕はどうしてルックが機嫌を損ねたのか図りかねていた。
あの言葉をいうためにルックがどれだけの勇気を必要として、その言葉に意味を乗せているだなんて。僕はまったく気が付かないのだから。
Let's die with me.
You only have to get wounded by me.
〜あなたは私によって傷つけられるだけでよいのです〜
「ん……」
目が覚めると、解放軍の冷たい石の天井が目に入った。
軋む体を無理矢理起こす。ぼーっと手元を見ていると、不意に頭を壁に押しつけられた。壁は左手にあったので、僕の左側頭部は少々流血している。
「やぁルック、おはよう。気分はどうだい?」
「最悪」
「それはよかった」
なにがいいものか。とは口には出さない。
「僕、どうなったの?」
気絶する前のことはきちんと憶えていたので、その後のことを尋ねる。
「敵殲滅後死にかけのルックを魔法で治して、今に到る」
「え…」
「危なかったんだよルック。まぁ、出血死しない辺りがルックらしいよ。傷口を焼いて塞いだのはわざと?」
「そんな芸当できないよ」
マクドールは僕を治したと言った。自ら手を出さずとも、放っておけば死んだであろう僕を。
壁に押しつけられていた頭が、今度は枕へと移される。
ギシ、と。
「!」
僕の頭の両脇に手を突いて、マクドールは僕を見下ろす。血液が顔に集まる。
「な、に…」
「ルック」
「……なに…」
マクドールの目が見れない。今僕の顔を見ないで欲しいと激しく思う。僕ってポーカーフェイスは苦手なんだろうか。ひょじょうの変化が乏しくても、こいつが関わるとすぐ顔色が変わってしまう。
「君は僕によって傷つけられるだけでいいんだ」
「………」
「僕以外に、傷つけられるのは駄目だよ」
それはそれでいいかも、なんて。
ああ、僕は重傷だ。