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ボコリ
愛する同盟様にいつのまにか新しいお題が追加されていることに気づきました。
お題お借りしました。そして賛同。
注意:坊ちゃんがルックをボコっているんじゃない、ルックが坊ちゃんをボコっているんだ。
01:気に喰わない
「その目が気に喰わない」
じっとルックを見つめるマクドールに冷たく言い放つ。
「いったいなんな訳?鬱陶しい」
「君の姿があんまりにも奇麗なので、つい」
「つい、じゃないしキモチワルイ」
うっとりと目を細めるマクドールを蹴り飛ばして、ため息をひとつ。ギシ、となるソファに身を沈めてねめつけるようにジトリと睨む。
「何度も言うようだけれど、僕はあんたが嫌いなの」
「好きだよ」
「頭悪いなぁ。理解してよ」
「ああ、ルックがじゃなくて」
ルックがその流れに不自然さを感じ続きを促す。
「ルックを、好きだよ」
万人が見れば惚れ惚れするような笑顔も、ルックにはどう頑張っても気色悪くしか見えない。
二度目のため息をついてから、近くにあった本を投げつける。角が当たったのか鈍い音がした。
そんな事実はなかったのかのようにマクドールは笑う。
そして恋慕を告げる。
心からの愛の告白も、
「愛しているよ」
「気に喰わない」
ぴしゃりと両断。
02:調子に乗るな
どうぞ、と。音も立てずに置かれたのは淹れ立ての紅茶だ。
顔をあげれば微笑むマクドール。
すっと下げた腕や先ほどのカップの起き方。さり気ない所でこいつは貴族でそれ相応の教養を備えているのだと知る。
とりあえずカップを手に取ってみる。香りはすこぶるいい。軍費で何を買っているのやら。
一口啜って、残りはマクドールにぶっかける。
「甘い」
熱い熱い紅茶をかけられたのにも関わらず、笑顔のまま「ごめんね」などとほざく。
いつも勝手に紅茶を淹れて持ってくるマクドール。初めこそ、甘かろうとぶっかけなどせずに、持ってくるなら砂糖を入れるなと口で言っていたが何度も繰り返すので3回目からこうしている。
なんでこんなバカくさいことわざとしているのか。入れない方が楽じゃないか。僕の好みにもぴったり。
淹れ直してくるね、なんて言ってティーセット一式と姿を消す。数分もすると新しいっ紅茶をもって戻り、初めと同じように音もなくカップは置かれた。
「…
うん」
入れなおされた紅茶は、いつだって美味しいのだから腹が立つ。
「ありがとう」
「調子に乗るな」
03:舌打ち
思わず舌打ちをした僕を、どうか許してほしい。
たとえそれが会議中で、ずっと悩んできた懸案にやっとこれならいけるという案が出され皆が納得に笑んでいる時であってもだ。ちなみに、その案に僕もまったくもって賛成なわけである。
無意識に出た舌うちではあるが、案外大きな音であったらしくその場が一瞬にして白ける。
静まり返った会議室で、みんなの視線は僕へと一直線。はぁ、とため息を漏らして、席を立つ。
「悪いね、気にしないで」
一言を告げてそのまま会議室を辞す。
いちいち訂正するのが面倒で簡単に済ませるのが僕の心証を悪くしているのは言うまでもないが、そんなことで気を荒立てるような小物にどう思われようが気にならない。
それよりもあいつだ。あの軍主。
腹が立ってしょうがない。あれが天魁星だなんて僕はなんてついていない。
にこにこ笑っているだけであとは放り出して。あの場にいるだけでまるでやる気がないあの馬鹿が。
一度殺してやろうか。
もう一度舌打ちをして、次あの顔を見たら有無を言わさず殴り倒してやろうと心に決めた。
どうせ、抵抗なんてしないんだろうけど。
04:張り倒す
むしゃくしゃする。何もかもが思い通りにいかない。そんなことは僕に限ってあるわけがないんだけれど、やっぱり思うようにいかないことはあるものだ。
「そんな気分の時にあんたの顔を見る羽目になる。この苛立たしさが君に理解できる?」
「もしも落ち込んでいるときにルックの顔を見れたら幸せな気分になるから、理解できないかな」
顔をしかめて、苛立たしげに大きなため息を長く吐き出した。
どうしよう。どうしてくれよう。いや、何もしないで立ち去ろう。今日は一刻も早く何事にかかわることなく布団にくるまって休息を取ろう。このイライラが消えない限りもう今日は駄目な気がする。
「ルック」
呼びとめるマクドールを無視してそのまま歩を進める。
けれど後ろから聞こえてくる声に、
「好きだよ」
ぴたりと止まって今来た道を戻りマクドールを思いきり張り倒した。
「僕は、嫌いだ!!」
05:踏みつける
遠征と称して連れ出された街の中、背を壁に預けじっと足元を見ている。
僕は忌々しくも軍主を待っていた。ほかのメンバーは休憩だと各々好きな所へ赴いているが、生憎と特に用事もない。ならばと、マクドールの用事に付き合ってほしいと言われたのだ。
ついて行ってやったはいいが、どうにも店内にまで足を踏み入れる気にはなれず外で待っていることにした。
じっと、足元を見つめる。温かさを感じる日差しに蟻たちは巣から這い出し一点へ向かって進行する。近くに弱り切った瀕死の蝶がいた。もう二度と宙を舞えない羽を僅かに震わせている。
――到達。
まだ残された命を蟻たちが群がり搾取していく。もと来た道を戻るように、蟻たちはひとひらの鮮やかな羽を運ぶ。半分を持っていかれた蝶は、残された蟻たちに覆い尽くされていた。
つ、とロッドの先端を蟻へと押しやった。蟻は慌てたように隙間から逃げ出す。そうか、蟻はなかなかにしぶとい生き物らしい。
先を行く蟻たちから羽を取り上げて、僕は一歩踏み出した足をその場所へと下ろす。擦るように靴の裏と地面を摩擦させ、理不尽としか言えない圧倒的な力で奪った。
そこからもう二歩ほど前へと進む。半分にされた蝶と蟻が僕の影に潜む。
僕は辛うじて死んでいない蝶ごと蟻を踏み潰した。同じく擦るようにしてしぶとい蟻の生存率を下げる。
「ルック?」
そこでやっと出てきたらしいマクドールに声をかけられる。
「どうしたの、なにをしているんだい」
「別に、蟻を踏んでたんだ」
「……
ルックが?」
若干驚いたような顔をして尋ねられたものだから、「それがなに」と肯定する。
「小さい子がよくやるんだよ。だから、少し意外に思っただけさ」
その顔に笑みを浮かべる。そんなことないのに、小馬鹿にしたようなにやにやした笑いに見えて不機嫌にロッドで殴打した。
「煩いね、この靴であんたも踏みつけてやろうか?」
「できれば、靴を脱いでお願いしたいな」
馬鹿じゃないのと小突いて皆との待ち合わせ場所へと向かう。
取り上げた羽は、風が高く高く運んで行った。
06:この●●
ぼくは衝撃に打ちのめされていた。あれが彼の姿だというのであれば、ぼくはただ受け止める。そうとも、受け止めてみせる。
だがどうだろう。あれは果たして本当に彼の姿であるのだろうか。気の迷い的な、そんな感じなのではないだろうか。というか希望というかなんと言うか。
ぼくは自分の理想というものを持っていないから、恋しいと思う彼こそが理想なのは間違いない。
ただ、思うのだ。先ほどの彼を見て、今まで見てきた彼とかけ離れていると。ぼくの中の彼の像が揺らぎ、その形を歪めていくのを感じる。
しかし何も心配はない。ぼくが彼を愛しいと思う気持ちに変化はないし、その歪みも見れば見るほど深みを増していくではないか。何を動揺することがある。そう、彼は彼なのだ。たとえ彼の口からは飛び出しそうもない、何かがその唇から吐き出されることがあろうとも変わりはしない。
ぼくの何が彼をそれに至らしめたのかは少々見当がつかないが、何かが逆鱗に触れたのだろう。いつも振るわれる力――彼は非力なので物に頼ること多々――ではなく言葉のみによる破壊が行われたのだ。
きっとそれこそがぼくに動揺という刺激を与えてくれる彼の本意であると、そう思うことにする。思いたいから。
「っこの●●!!!」
すまない。ぼくにはノイズが入って鮮明に思い出すことができなくなっているようだ。
※
ルックが言いそうもない下品な貶し言葉をお入れください。
07:笑うな
その鼻めがけて僕はロットを振り下ろした。身体能力の差からいっても、こいつの武力からいっても確実にかわせるはずの一撃を、軍主は微動だにせず笑顔のまま食らった。
ごき、と鈍い音がした。いくら僕の力が弱くても、思い切り振りかぶったロットを受ければそれなりのダメージを負うだろう。そしてその通りにこいつの鼻は歪み、真っ赤な血を滴らせる。その血を拭いながら、鼻以外変わらぬままの顔で僕を見る。
「どうしたの、ルック?なにかあった」
「どうしただって」
今現在どうかなっているのは自分だろう。唐突に暴力をふるった相手になぜかを尋ねるのは間違ってはいない。だが加害者の僕の心情を伺う「なぜか」は尋ねるに値しない。
「お前は馬鹿だ。頭が悪すぎる。罪にしてもおかしくないほどの馬鹿だ」
「うん。ごめんね」
「この状況、その顔で笑っているなんてどうかしている」
「ぼくはルックが好きだから」
「そんなの理由に」
「命がけで恋してるから」
「は」
「ルックから貰えるものなら、それが痛みや恨みでも僕は嬉しい」
「……罪にしてもおかしくないって言うか、すでに犯罪スレスレに限りなく気持ち悪いから」
「ふふ」
「笑うな。笑っていいところじゃない」
僕は折れている鼻をはり倒した。
08:触るな
今日、ルックは一度も一瞬たりとも決して故意に触らせてはくれなかった。いつも一日に数回は一瞬でも触れるチャンスがあるのにだ。
どうしたのだろう、何かあったのだろうか。ルックが思い悩んでいるのなら力になりたい。どうする事もできないかもしれないけれど、彼を一人になんてさせたくない。
僕は部屋を訪ねた。ノックをしたけれど部屋は静か。でもルックの気配があったから「入るね」と断って戸をあけた。
「ルック」
「誰が入っていいなんて言った」
「でも留守じゃなかったみたいだから」
「お前だから出なかったんだ」
ルックは本へと視線を落したままだ。僕は近づいて彼に触れようとする。
「触るな!」
僕を睨んで接触を強く拒否する。
ああ、その目で見つめてくれるなら、一日くらいのお預け我慢しよう。
だってそう。ルックはちょっと機嫌が悪いだけみたいだから。
09:気持ち悪い
気持ち悪い。なんだこれは。胃からこみ上げてくるものがある。吐きそうだ。
今までこんなことはなかったが、おそらく魔力の暴走だ。最近真の風の封印が弱まってきていたから、隙間から洩れた魔力が僕に干渉しているのだろう。今の僕ではキャパシティが足りない。溢れてしまいそうだ。
早く始まってもいないこの会議を終わらせて帰りたい。肝心の軍主が遅刻してどうする。遠征も時間通りに終わらせろ。イライラする気力も失せてきた。
「すまない、遅れ、て……」
そこで言葉を尻すぼみさせて僕を凝視する。なんだ。突然大股で近づいてきたかと思うと有無を言わさずに僕を抱き上げる。
「なっ…!」
「魔法兵団長は具合が優れないようだ。部屋まで送ってくるので悪いが始めていておくれ」
「ちょっと、ふざけるな。触るな、降ろせ!」
声を荒げて睨みつけるが、こいつと目が合った瞬間息が詰まった。
「ごめんね。すぐだから」
いつも笑んでいるその顔に表情はない。なにこれ。いつもは、もっと。
暴れるのも体力的に辛いし、とりあえず部屋までの足と割り切って我慢しよう。
ああ、魔力が溢れる。
「………
気持ち悪い」
「ごめんね。もうちょっとだから頑張って」
違う。笑っていないお前が気持ち悪いんだ。
10:首を絞める
どうしたんだろう。ルックが辛そうな顔をしている。大丈夫だろうか。
神がその手で丹精こめて神経すり減らしながら造り出したかのような美しい彼の顔は苦しげに歪められている。もちろん、そんなルックも綺麗だ。
その下には細く白い首が続く。日焼けなど欠片も知らないその白さが、どれだけの人間の情欲を掻き立てているのか、ルックはきっと知りもしない。知っても「それで?」の一言で一蹴されてしまうのだろうけど。
ゆったりとした、彼の瞳にぴったりの緑の法衣に華奢な体躯は覆われている。すらりとした腕は伸びてぼくの首へと纏わりついている。
軽く握れば折れてしまいそうなその指がぼくの喉を押しつけるように絡みつく。
どうしたの。
そう問いかけたくもなるだろう。ルックはとても苦しそうだ。細い指が絡むために発声はぎこちないものとなってしまったが、ぼくは彼に尋ねる。
「ど…
した……の…?」
「どうしたって。君はやっぱりどうしようもない馬鹿だね。君は今、僕に首を絞められているっていうのに」
だって、ねぇルック。
「…えっ?」
ぼくは彼の肩に両の手をおいて、ぼくに跨るルックを押し倒した。指はぼくの首を離れる。
「そのくらいの力なら、ちょっと苦しいだけだもの。ぼくより全然ルックのほうが苦しそう」
「なっ、ちょっとやだ。どけてよ」
「でも……そうだ」
「……なにさ」
「笑って」
「は?」
「ルックが笑ってくれたら、退ける」
ぼくは笑って、願う。ルックの笑顔は一度として見たことがない。けれど、ルックが笑ったらそれはそれは綺麗で可愛いのだろう。
でもルックはそれを聞くと耳まで真っ赤にして怒ってしまった。
「調子に乗るなよ天魁星!僕はお前のためにここにいる訳じゃないし、お前が喜ぶことは絶対しない!」
最後にビンタを貰って、ルックは転移で消えていしまった。
ヒリヒリする頬をさすりながら、ルックがそばにいる限り彼の思い通りにはならないのにと笑みをこぼす。
………赤面したルックは、想像以上に可愛かったです。
11:キス
「ルック」
そう声をかけられ、しかし声の主を思うとルックの耳は急に難聴に陥ることにした。
「ルック」
ルックとマクドールの間にある距離を埋めるために、軽く駆ける音がする。溜息を吐きつつ諦めたようにルックの聴力は回復した。
「なにさ」
「ルックがいたから」
「いたから」
「会いに」
「あっそ」
用事がない者に構う価値なし。ルックは軍主をおいて歩き出す。
「ルック」
再度呼び止められいい加減にしろと振り返ると、
「っ!」
マクドールの顔がルックの視界いっぱいに飛び込んできた。ルックは驚くと同時に反射の域で動いた己の手で相手の頭を殴った。
「なにさ」
目が丸くなっているルックに、いつものヘラっとした顔であっさりと答える。
「今日はルックにキスしようって決めてたんだ」
「はぁ?なんでさ。頭わいてるから?」
「ぼくの誕生日だから」
「そんなくだらない理由で、僕は唇を奪われそうになったわけ」
「うん」
「くだらないね」
「そうかな」
「まったくもって」
ルックにとって「誕生」などただの始まりにすぎず祝うことでもなんでもなかった。しかしルックの考えとは裏腹に世の中では生まれ出でたことに感謝を送る。そんなものかと、何気なしにその様を見ていた。
「………」
ルックは冷めた目でマクドールを見やり、踵で思い切りつま先を踏みつけた。小さく「いっ」と声を漏らしたマクドールの胸倉をつかみ引き寄せる。
唇が重なる。そのまま、ゆっくりとルックが口を開く。そして閉じる。
「………ルック、死ぬほどうれしいけど結構痛い」
「オメデトウ」
「食い千切られるかと思った」
「食い千切ってやるつもりだった」
あんまりにも嬉しそうに笑って言うものだから、ルックは少し面白くない。
「ありがとう」
「うん?オメデトウ」
「ありがとうね」
そう、ルックを抱き寄せようとするものだから、紡いだ紋章を眼前に突き付ける。
「調子には、乗らないでよね?」
「ごめんルック、もう無理そう」
―――おまけ―――――――――――――――――――――――――――↓
いつもどおり、坊ちゃんがルックをボコってます。やっぱりこっちのが好きです。上記とは関係ありません。
「調子に乗るなよ天間星」
そう言って僕の腹部を蹴り上げるのは黒い靴。視線を上へやれば眼に痛い赤。
「お前、何様?ルックは何もしなくていいんだ。俺と、俺に遊ばれていればいい。わかるだろう?」
「…っそん…なの」
知ったことではない。そう続く言葉は頬を叩かれることで止まる。
「そんなの、なに?」
にっこりと笑って、僕から言葉を奪う。何も言えなくなる。
怖い、と思うのはいつものこと。マクドールが僕に望むものなんてこれしかないのだから仕方がない。なんでこんなのが、こいつのためなら軽く死ねるくらい好きなのか本当にわからない。気づいてしまわなければよかった。
震えそうになる体を、掌に血がにじむほど握りしめてこらえる。泣かない。絶対泣かない。泣いたら、彼は僕に飽きてしまうだろうか
ら。……あと悔しいから。
目にたまる涙をこぼすまいと上を向く。マクドールと目が合った。
「っ」
彼がにやりと、恍惚を孕んだ目で僕を見下ろす。
「なに。泣きそうなの?」
「ちがっ」
「かわいいね」
一瞬で頬に熱が集まるのがわかる。
「泣けばいいだろう?別に嫌いになんかならないよ」
「ふざけ…っ」
「ああ、でも」
マクドールが屈みこんで、僕の耳もとへ口を寄せる。囁くような吐息に全身がぞわりと沸き立った。
「我慢してるときが、一番かわいい」
そのあとも叩かれたり蹴られたりしたけれど、そんなの何でもない。
恥ずかしくて死ねる。
ここのルックは虐められるとすぐ泣いちゃいそうな感じがする。