殴って、殴って、ボロボロにして。

 気付いたら、涙目だった。

 いつもと違う彼の目が、綺麗で、思った。


 おいしそう。



悔しいけど愛してる




 どうして泣きそうなのかなんて考えはすっかり飛んで、俺の思考はそれだけに捕らわれた。その目に気付いた瞬間に殴ることは止めていて、俺は押し倒していたルックに覆い被さるように顔を近づけた。

 びくりと驚くルックを無視して接近を続ける。

 そしてゼロ距離。

 ぺろり、と。その眼球を舐めて、「しょっぱい」と殴りつけた。




 甘いと思ったのに。

 





 いつもの如く殴られていた。痛みにはもう慣れてきてはいたのだけど、この奇妙な関係に限界を感じていた。

 あんなに理不尽なのに、僕の事なんて微塵も考えていなさそうなのに。どうして好きになんてなっているのか。

 自分自身が分からなくて、ちょっと泣きそうだな、なんて思っていたら、あいつは急に動きを止めて、接近。どんどん顔が近付いてきて、キスされると思った瞬間。

 あいつは目玉を舐めてきた。

 吃驚して「うぇ…?」なんて僕の戸惑い無視して、理不尽にも殴られた。



 涙がしょっぱいのなんて、当たり前じゃないか。

 







 ルックは頭に来ていた。もう駄目だと思っていた関係。そこにキスを思わせるようなそぶりを見せて、結局したのは倒錯的な行為。その上殴られて文句を言われる。ルックにしたらそんなこと知った事じゃないだろう。

 いい加減腹が立ったルックは自らのダメージを考えずに思わず頭突きを繰り出した。はっきり言ってルックの防御力と体力は軍内でも最弱を争うほどである。そんな彼からの打撃にどちらがよりダメージを受けたかと言えば、仕掛けた方のルックである。確かに多少マクドールも痛かったのであるが、ルックほどではない。額を両の手で押さえて悶絶している、ルックほどでは。

「…お前馬鹿だろう」

「っう、うるさいよ!」

 思わぬサンドバックの攻撃に反撃を忘れているマクドール。途中で気付いたが、とりあえず今日はいいか、と自分に結論を下した。

 どうにか痛みの引いてきたルックはマクドールにどけろと手を突き出すがそれは叶わず、馬乗りになられたままだった。

「くそ…なんなのさ。僕のこと殴るだけ殴って、僕をどうしたいのかわからないよ」

「別にどうも…このままでいいじゃないか」

「よくないよ!こっちはぐちゃぐちゃだ。ちゃんと思考がまとまらない。それがあんたのせいかと思うと悔しくて堪らない」

「なぜだ?」



「っ、僕があんたを好きなことを知っていて、それを利用する奴で頭がいっぱいなんてむかつくだろ!!」



 嗚咽を押し殺すようにボロボロと泣くルック。最後に悪態を付いて、転移して消えてしまう。

 残されたマクドールは呆然と、何が起こったのか分からないまま動けずにいた。


「あいつが、俺を好き…?」





 気付いていなかったマクドール。ルックは思わぬ形で告白をした。










 

マクドールはこの後もんもんと悩んでルックと話そうとしますが、
ことごとくルックに逃げられて自分も恋を自覚します。
すでに手遅れでないことを祈ります。