テッドが、おかしい。
絶対変だ。奇妙だ。どうして、僕に優しいの。
ああ、違う、違うのに。
勘違いしちゃいそうだよ、テッド。
相互認識
眩しい。眩しくて見ていられない。太陽を直接見ようとすると、目が焼かれるように痛いのと、同じ。
書庫から飛び出して、直ぐに台所へと転移する。
ため息を思わずこぼす。
テッドが笑うと僕はどうしていいかわからなくなる。わからないから、大抵逃げる。あんなに優しい顔を向けられては、もう僕に思考するスペースなど頭から消え去ってしまうのだ。
「…っ!!」
テッドの紋章が、ソウルイーターが騒いだ。びくりと思わず振り返って、魂喰らいがレックナート様の下へ進んでいることを知って安堵する。でも、不安は拭いきれなくて。
どうしたの、テッド。なにが、あったの?どうしても落ち着かなくて、料理も手につかなくて。結局僕は、書庫へと足を向けることになった。
「…好きだよ。くそっ、好きで好きで、どうしていか分かんねぇよ…!」
入口の戸に手をかけ、まさに押し開こうとしていたそのときだった。
中から聞こえてきたテッドの言葉に、僕は思わす呼吸を詰まらせた。
手をけていた戸は僅かに力が掛かったことによりギィと音を立てて開かれた。
瞠目する僕に、テッドもまた、その目は開かれていた。
「ルッ…ク……」
呟きは、僕の耳に辛うじて届いて。ねぇ、テッド。その投げかけた言葉は、一体誰に向けられたもの?勘違いしてもいいの。勘違いじゃないの。
「っ!」
くそ、だなんて悪態付いて、テッドはドカドカと乱暴な足取りで僕の所まで来ると、きつく僕を抱きしめた。
「なんだよ、タイミング悪すぎだ…。このまま出ていくつもりだったのに」
「や…だよ、テッド。出ていくだなんて。嫌だよ!好きだよテッド。好かれなくても、ずっと一緒にいたいよ…!」
「……っ」
テッドの顔は、抱きしめられている僕には伺えない。それでも苦しそうな小さな呻きに、僕はやっぱり、いつもの言葉しか言えなかった。
「ねぇ…テッド…、僕のこと、好きになった…?」
肩口にくっつけていた頭を離し、無理矢理笑って問いかける。
苦しそうな顔をして、テッドは僕に、キスをした。
暫くして、唇が離れる。どうにか息をする僕に、テッドは、「好きだ」と何度も繰り返した。
犯罪者になった気分。そうテッドは言った。
僕はシーツにくるまったまま、隣に寝転がるテッドを見る。頭の後ろで手を組んで、天井を見つめている。
テッドが僕を好きだと言った。7年間も片想いしていたんだ。もちろん、嬉しい。でも、テッドはそうじゃないみたい。
ううん。僕もわかっているんだ。テッドが行ってしまうこと。どうしたって、引き留められないこと。テッドは目的があって、その休憩としてこの島にきただけ。
「ルック…オレな」
「いいんだ、テッド。わかってる。わかってるから…」
もう、僕と大して変わらない少年の体に抱きついて。
「今だけ、こうしていさせて…」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくて、埋めるように顔を隠した。
テッドはいつもみたいに、僕の頭を撫でてくれた。
まだ夜も明けない内に、テッドは島を出ていくという。
陽こそ昇ってはいないけれど、早朝と言えなくもない時間帯。僕とテッド、レックナート様は塔の前にいた。
テッドが、行ってしまうから。
僕はテッドに抱きついて、「死なないでね」とお見送り。盲いているレックナート様の前だからというわけではない。どうせあの方は、見えているのだから。でも我慢もできない。また会えるとも限らない。
でもテッドの邪魔はしたくない。
抱きついていた腕を離して、唇を寄せる。それはくっつけただけのいたく幼稚なものだったけど。それでも、こっそりと「また」を期待するものだった。
「いってらっしゃい」とは言えない。ここは帰る場所じゃないから。そうなって欲しいと何度も願ったけど、きっとどうにもならないこと。
「…レックナート。頼む」
「………それもまた、運命なれば」
無理矢理作った笑顔を張り付けて。
「さよ、なら」
別れの挨拶。テッドは僕の頭に手を乗せて、撫でてくれる。レックナート様が門を開き、テッドを送ろうとした瞬間、掠めるように、テッドがキスをしてくれた。
目を見張って姿を追うけれど、もうそこにテッドはいなくて。あの闇の紋章さえ、封印している今では感じることもできない。
テッドはもう、ここにいない。
眩しすぎる太陽は、月に隠れたきり出てこない。