闇が訪れて、七巡り。
それだけして、思いが通じて。
だけれど緑の元を去っていく。
Without say good-by −初めての−
テッドがレックナートの門をくぐり、魔術師の島を去った。門は消え去り、もうその姿を見ることはできない。この島にはもういないのだとはっきりと自覚してから、叱咤して立っていた足の力を抜いた。
しゃがみ込んで、俯いて。落涙した涙は地面に吸い込まれる。爪に土が入るのも厭わずに、地面をかく。
「…いやだよ、テッド…」
小さなその背中を見て、レックナートは手を伸ばす。だが、その手が届く前に腕を下げる。
この子を慰めることなどできはしない。
それができるのは、今ルックを泣かせているその人物のみ。
レックナートは音も立てず、その場から消え去った。
「行かないで…!」
レックナートがいなくなったことにも気付かずに、ルックは折った肘までを地に付けて、跼蹐するかのように叫ぶ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、僕を置いていかないで!!」
だけれどそれは、彼がいないから言えること。
笑顔で送り出して上げたい。だから精一杯の虚勢を張って、無理矢理笑みを作って。それは、半分剥がれてもいたけれど。
「でももう、いいよね…?君に聞こえないのなら、叶わない願いくらい、叫ぶことを許して…」
ルックに「生まれてから」を尋ねれば、この島でテッドに会ってからを語るだろう。思い出の殆どは、彼で埋め尽くされている。
ルックにとって、テッドの存在は大きすぎた。
声が枯れるまで叫んで、涙が尽きるまで喚いて。
朝になっても、太陽は昇らなかった。
魔術師の島を出て、七年ぶりに外へと出たテッドは赤月帝国にいた。
『あと、一回りもないでしょう』
300年間再会を待ち望んだあの男より、たった今別れたばかりの少年に会いたいと思う自分がいる。
テッドが立つのはアールスの地北端。振り返れば見えるのは海ばかりで、塔の先端も見えはしない。
「…ああ、結界か…」
たとえ見える距離にあろうとも、バランスの執行者が施す結界により見ることはできない。
分かっていても、テッドはただその水平線を見つめて立ちつくした。
離れたくない。
その思いを無理矢理押し込めて、テッドは歩き出す。
赤月帝国に訪れたのは3度目だった。ここから一番近い村はロックランド。その後グレッグミンスター、レナンカプ。アールスからゴウランに入り、ロリマーへ。その前に大森林に寄ってみるのもいいかもしれない。人間嫌いのエルフに追い出されるかもしれないけれど。
そんな計画を頭の中で思い描いて、渋々出した足をもう一歩、もう一歩と進める。
進めば進むだけ、ルックとの距離は広がって。目を閉じれば浮かぶのは、最後の無理矢理笑ったあの笑顔。
空を見上げて、ルックもこの空を見ていればいいと願う。
強く生きてくれれば、と。
オアシスが、枯れかけているとも知らずに。
これで「子ルックとテッド」は終わりになります。
この後3話を挟んで「テッドが好きなルックを好きなマクドール(仮)」に入ります。
要するにテドルク←坊です。
ここまで来ちゃうとなかなかテッドが出てきません。
いえ、存在感だけはばんばん醸し出せるよう努力しますが…。
今回短いんですが、もう膨らませないので終わります。(えぇー)