たった一人、世界に放り出された。
おとぎばなし −テッド−
訳の分からないまま村を出て、ウィンディとか言う魔女に追いかけられて。
心休まる時なんてなかった。
あの日、来客なんて訪れたことのなかった村に訪れた人達。「何が何でも生き延びろ」と言われた。幼かったオレはその言葉しか縋るものもなくて、結局、暫くそれに寄っかかってた。
でも、オレは諦めた。
いつまで待てばいい?いつになったら安息は訪れる?なぜ紋章を持っているだけでこんなにも奪われなければならない?
光りの中に消えてしまった彼等は、突然の苦況にオレが作り出した幻想だったんじゃないか?
そんな思いに駆られるようになったころ、紋章は夢を見せた。
オレは、堪えられなかった。
弱かった。強い事なんて何もなかった。
ソウルイーターを暴走させ、これで死んで終わりかと思った。オレの人生は、なんてちっぽけなのかと。
でも死ななかった。
オレを生かしたのは、別世界のバケモノだった。
そいつは暴走したオレをつまみ上げると闇の中へ引きずり込んだ。
そして懐柔。そう、懐柔といっても過言ではないだろう。暴走するオレを抑え、一言一句優しさを滲ませて言うのだ。
『辛かっただろう?』
『さぁ、もういいんだよ』
『そんなもの、捨ててしまえばいいじゃないか』
オレは闇の虜になった。
なんて甘い世界。なんて静かな世界。
今この手に紋章はない。
言われるままに紋章を預けた。灰色の夢も見なくなった。オレは、解放されたと思ったんだ。
でも、そんなものはまやかし。
暫くしたら気付いた。
この暖かな闇は、反面、出口のない牢獄だと。気付いた当初は別に気にやしなかった。牢獄でも箱庭でも、外界からの脅威から守ってくれる盾だと思えばいい。
そんな言い訳。
自分に言い訳するのにも疲れた頃、船長がオレを呼んだ。
闇を持った贄だ、と。
オレはその贄とやらを出迎えた。オレは驚いたね。「船長、乗せる奴を間違えたんじゃないか」って本気で言いに行こうかと思った。
だって、光りに見えたから。
あの時縋った、光りに。とてもよく似ている。
そいつはやっぱり、光りだった。闇じゃない。闇を飲み込む光りだった。
オレは船長から魂喰らいを少々強引な方法で返してもらった。
しぶとい船長にどうしようかと狼狽えていたら、女が現れた。招かれない限り、入ることなど出来ないはずなのに。
振り返ったその顔が、誰かに似ていると思った。
崩壊する闇から出て良いのかと戸惑っていたら、「どうしたの、早く行かなきゃ」なんて言ってオレの手を引っ張るバカ。
だってバカだろう。どう考えても。崩壊する闇の箱から脱出できなければ、一生出られないのに。だのに、会ったばっかりの他人を気にしていられる余裕なんてあるはず無い。
引っ張られながらオレは思わず呟いたね、「バカだ」って。
結局オレは人生2度目の光りに助けられたんだ。
1回目の光りだって、2回目の光りに会って嘘じゃなかったって確信できた。泥まみれの世の中にだって、ちゃんと輝いている宝石が紛れているんだ。
そうしてオレはまた旅に出た。今までにない清々しい思い。
そうしたらすぐに、レックナートが来た。
誰かに似ていると思っていた女だ。まぁ答えはレックナートが教えてくれたわけだが。
そう、ウィンディだ。
なんせ久しぶりだったもんで顔も朧気になっていたらしい。
そうして、やっとだ。オレが詳しい事情を知ることができたのは。
おいおい150年経ってやっとかよ。なんて、オレは笑うことができた。ずっと「大人になりたくない」って駄々こねる思春期のガキみたいに引き籠もって。なんもかんもを放り出してた。
でも、もう止めた。何てったって後ろ向き人生は阿呆みたいに時間と精神を浪費する。それに比べて前向き人生は楽しいし楽だし今までを思うと馬鹿らしくって笑っちゃうね。
だから、140年間くらいノンストップで旅を続けた。
そりゃあウィンディはしつこいしヤバイことなんて死ぬほどあったけど、ガキの頃を思うとずっと充実した人生謳歌していると思う。ていうか、胸を張って断言できる。
そんで、小休止、なんて思って魔術師の島にお邪魔した。
子供がいた。まさかレックナートの子供かと思ったけど、やっぱり違くて。
どっちにしろ同居人には変わりない。仲良くしようと思ったよ。
それだけだった。
きっとレックナートは大して話し相手にもなってくれないだろうし、ちょうどよさそうな話し相手がいるならいた方がやっぱり楽しいだろう。
話しかけた子供はいたく無表情で、笑わせてやると宣言した傍から笑顔を見せてくれた。
嬉しかった。そうだろう?子供が懐いてくれたんだ。誰だって嬉しいはずさ。
そしたらどうだ。その子供の心を開いたおかげでえらく好かれてしまった。300歳のオレが7歳児にだ。焦ったね。こんなつもりじゃなかったのにと、へまをしたと正直思ったさ。普通に仲良しの同居人になりたかっただけなのに。
でも可愛いんだよな、あいつ。ちょろちょろ後ろ付いて回って、頭撫でてやるだけですごく幸せそうに笑って。それが全部オレにだけ向けられているって思うとヤバイくらいに嬉しかった。
嬉しかったけど、危険だった。
ルックはオレに執着しすぎだ。いつかは出て行くわけだし、もっと他人に慣れさせた方がいいと思った。
そしたらもうすぐ帝国から使者が来るって言うし、ルックに任せてみたらってお節介。
ホント、お節介だったのかも。
でも絶対必要だった。でもそのくせ嫉妬した。
オレ超馬鹿じゃん?話してただけだぜ?しかもルックは死ぬほど不愛想。
そんでオレがお節介かました性で、オレは自分の気持ちに気付いちゃうし。
ルックに好きだと言われた時以上に焦ったね。本気で自分の性癖疑った。同性愛のお稚児趣味!?ってな。
綺麗なおねぇさん思い浮かべてみたけど自分は正常だと分かっただけ。でもルックを見てるとその自身が揺らぐ。
オレやぁべー。
でも、他にもっとやばいことがあった。
オレ忘れてたんだ。自分がどれだけ危ないもん抱えてるのかって。なにしなくちゃいけないのかって。
今なら分かる。彼はあの時持っていたはずだ。
ソウルイーターは、あの光りに継承しなけらばならないのだ。
後ろ髪全力で引かれながらも踏ん張って、鈍い一歩を踏み出して。
あの風にさよならする。
もし「また」があるのなら、今度は「好き」じゃなくて、「愛してる」を囁こう。
自分でクサイと空を仰ぎつつも、それを止めようとは思わなかった。
それから数ヶ月の旅。ロリマーに入って、合戦跡。あちゃーなんて辺りを見渡して、目があった。
威風堂々。すっげ似合う言葉。
なんでか近寄ってきて、話して、「子供は帰りなさい」なんて言われて、つい大人げなくカチン。「お父さんの死体を探してるんだ」って笑ってやれば、…あれ?予想外の顔。気まずそうな顔をするかと思いきや、目をつり上げてクワッと口を開く。
そんな下手な嘘をつくもんじゃない
…ホラには自信あったんだけどなぁ。ていうか、上手かったらいいのか?
なんて考えてたら、ひょいと担ぎ上げられて、抵抗虚しく軍のキャンプ地まで連れてかれて。「どうせ家出だろう、帰りたくないなら家にきなさい」。
家出ではない。決してない。そんでもっておじさん家行く予定もない。オレは光りに会うんだから、道草喰う訳にはいかんのだ。
そう思って、脱走試みることの10回。ことごとく失敗。仕方ないので、前向き思考で「あっちに光りがいるかも知れない」と考え直す。
何日かして、グレッグミンスターについた。ちょっとがっかりしたね。グレッグミンスターは何カ月か前きたばっかりだったから。まぁここまできてなんだから、お邪魔したけどね。
…オレは初めて、運命に感謝したね。
やっとだ。300年待ち望んだ。
ああ。
ずっと昔のことだけど、やっとのことで、おとぎばなしじゃなくなった。
「ぼくはニィド・マクドール。君は?」
150年を境目に、テッドのテンションが違う。
テドルク編の坊ちゃんの名前は「ニィド」になりました。