夢 物 語


 寝台で横になっていたルックは、夜中にぱちと目を覚ました。

 体を起こして、辺りを見渡す。そして手を。暫くそうして、髪に手を差し込みつつ首を傾げる。

 ルックは寝台から降りた。



「何の用だ。最低限お前と同じ空気は吸いたくない」

 訪れたのは軍主の部屋。闇も深いこの時間、未だ明かりを付けて机に向いている。

 ノックもせずにいきなり開け放つと、軍主の言葉など聞いていないかのように四方から軍主を眺める。仕舞におざなりに手にしていた杖でつつかれそうになって抗議を示す。

 ふっ、と笑い混じりにため息をこぼすルック。

「夢を見たんだ」

「なんの」

 不機嫌な顔を放り捨て、やや興味を持って訪ねる。




「僕がお前を殺す夢」




 聞くと、ニヤリ。嗤って軍主は背もたれに体を預け腕を組む。

「ほう。ずいぶん面白そうじゃないか」

「それがあんまりにも現実味に溢れていたから、本当に殺したんじゃないかと思ってさ」

「確認に来たわけだ」

「まぁね。残念なような嬉しいような。死んでて欲しかったけど、夢じゃなくちゃんと僕の手で殺したいし」

「で、私の死に様は如何様な?」

 訊ねられ、思い出したように笑う。


「それはそれは無様なものさ。ま、人のこと言えないんだけどね。




互い力を使い果たしたその滑稽で哀れなこと!お前は真っ直ぐに僕に向かって棍を突き出す。僕は土で壁を作る。僕は防いで、時々切り裂きを放つ。

そんな攻防で僕の魔力も殆どなくて、お前の体力も同じ。僕は右腕を砕かれてて、もろに喰らった棍で内蔵はぐちゃぐちゃ、片方耳も落ちてた。お前は腕と足一本ずつなくって、すっぱり切れた傷口から血がどばどば出てるのにこれがなかなか死ななくてさ。異常なくらいしぶといのが、現実味溢れてるだろ。

そんな状況で、お前静かなる湖使うんだよ。

僕はもう杖で支えても立っていることができなくてさ。その状況で紋章も使えない。なのにお前はゆっくりと、這うように近付いて来るんだ。

生きているのが不思議なその姿で、戦意と殺意だけはギラギラさせて。僕のところまで辿り着いたあんたは最後の力振り絞って、僕に留め刺そうとするんだけど、その時ふと気付いたんだ。

何故か僕の左手には両刃の剣が握られていて、棍を振りかぶったお前の首めがけてそれ振るってさ。刃が肉に飲み込まれて、骨を砕く鈍い音がして、血が勢いよく吹き出して、お前の首が落ちたんだ!




その時の感触がいやに本物じみてたから、目が覚めた時本当に夢だったのかと疑った」


 うっとりと語って、クスクス笑う。軍主も楽しそうにしていたが、それは夢だと断言した。

「私が腕や足の2本ないくらいで、魔術師如きの脆弱な剣などかわせないはずもない。お前などに殺されるのもあり得ないが、一番あり得ないのは」

「あり得ないのは?」




「お前の力で、人間の首は落とせないだろうよ」
















短めの突発話。
昨日寝る寸前に始めの会話部分だけ思いついたのを奇跡的にも覚えていたので。
どうにも伸ばせなくて短いですけど。