Ruu様が配布なされているお題、
「お正月」の「仁義無き戦い」
をお借りしました。
配布元はこちら。
ああ、ルック。
今日こそ、今年こそ、僕は勝ちをもぎ取ってみせる。
例え君が相手でも、これだけは譲れない。
絶対、島に入ってみせる。
仁義無き戦い
「ルックさま、戦闘準備完了しました!」
「よし。セラ、いいかい。君がこれから会うであろう生き物を人間と思ってはいけない。あれは邪悪な悪魔の生まれ変わりの、虫だ」
「虫ですか」
「害虫の如く踏みつぶして良いということさ。しかし陰険さは悪魔の百倍、しぶとさはゴギブリの万倍だよ」
「はい、ルックさまっ」と勢いよく返事をするルックの養女セラ。セラはその年にルックがハルモニアから誘拐、基、救い出してきた7歳になる少女だ。毎年行われている「対マクドール、お前にこの地は踏ませない決戦」に参加するのは初めてだ。ちなみに毎年の参加者は2名である。
セラの握りしめられた左右の掌は、それぞれまさかりとなぎなたを手にしている。背中にはロッドが、上方から引くと抜けるようにくくりつけてある。至って少女には不釣り合いだ。サークレットだけが違和感を感じさせない。
一方ルックもまた武装していた。いつの頃からか変えたロッド。そのロッドの先は鋭く尖っていて、上部に付いている鉱石は大変に貴重な玉水石だ。空いた手は、腰に差した長剣を抜けるように何も持たない。その両手にはメリケンサック。肩には弓を、背には矢を。パッと見て取れるのはそれだけであるが、他にも色々仕込んでいる。
ゆったりとしながらも動きやすい服を纏い、いつもは解かれている髪を項で一つに括るその姿はなんとも凛々しい。
ふと、ルックが目を細めた。風が通り抜ける。そして、パキィン、という高くも籠もった音。
「来た!!」
5重に張った結界の2つが一瞬にして消え去った。
セラとルックが物陰に潜み気配を消した頃、残っていた3つの結界は強引に破られた。高く済んだ、魔力の砕ける音がした。
一番内側に張られていた結界が破られ、籠もっていた音は澄み、結界の破片がパラパラと落ちてくる。それは地に着く頃には姿を消す。
その破片と共に、上空から人影が落ちてこようとしていた。
「ルックーーーー!!」
呼ばれたルックはギリギリと弓を引いており、落下を計算し矢を放った。ルックの使用している弓は大型のもので、小回りは利かないが威力が高い。しかし、その弓は空を切る。それはどちらも予測していたことで、マクドールは飛んできた弓の方向からルックのいる位置に目星をつけた。
空中でくるりと回ることで矢を避けたマクドールだが、未だ落下を続けている。結界はかなり高い位置、塔をすっぽりと覆うほどにまで及んでいた。しかし、地上まで数十メートルというところでルックの風が発動。決戦の名の通り、島の土は踏ませないとマクドールの体を吹き上げる。ルックは懐から竜もいちころであの世行きという猛毒を仕込んだ吹き矢を懐から取りだし放った。マクドールは体をひねることでそれを回避したが、続けて放たれていた矢が襲いかかる。それを棍を振る風圧で吹き飛ばす。
その間も続いていた落下はついに足をつけられる距離までに到達し、マクドールが空中で回転し勢いを殺したところを見計らってルックは姿を現し撒きびしを広範囲にぶちまける。
「うわぁ!?ちょ、うそっ」
まさかこのような古典的な方法で来るとは思っていなかったマクドールは慌てて垂直に棍を地に突き立てる。
「お前は雑伎団か」
「わぁお毎年熱い歓迎痛み入りますよー」
皮肉に笑うルックとにっこり笑うマクドール。
自らが撒いた撒きびしに引っかかるような愚鈍はしない。ルックは風をまとうことにより地面から浮いていた。その状態で呪文すら必要としない切り裂きを放つ。マクドールは重力も相まって深々と地に刺さっている棍を軸に上空へ飛び上がり第一撃をかわす。頭から落ちてきて棍の先を掴むと、足から思い切り反動を付けて撒きびしの撒かれていない地面へと跳躍した。棍は土を大きく抉りながらマクドールの手に吸い付くように付いてきた。
「っさせるか!」
ルックが叫ぶと右手で刀を抜きマクドールへと切り上げる。それをやはりくるりと回ってかわすと、その長剣の切っ先に足をつける。マクドールの体重を支えることも出来ず剣はルックの手を放れ、遂にマクドールは、魔術師に島に足をつけた。
守備側としては、空中戦でいる内に決着を付けたかった。武術の達人であるマクドールに肉弾戦で勝てる確立は限りなくゼロに近い。相手が棍1本なのに対し、ルックが小細工と言わんばかりに武装しているのはその為である。ルックとて、魔術師でありながら相当に武術を扱えるという、イレギュラー的な、殆どの場合にとって反則的な実力を誇ってはいるのだが。
地に足をつけた瞬間、マクドールの口元が、にぃ、と笑みに歪む。
ルックは一歩後じさり、ロッドを構える。
と、マクドールの体が突然傾いだ。棍が手から放れた。ルックはその瞬間、大地の紋章でマクドールの足場を崩し生き埋めにしようとする、がその土をソウルイーターで異界へと葬った。
「なんだ…?」
「なぁに、どうかいしたのかい?」
ルックはクスクスと笑っている。マクドールは訝しむ。体が傾いだのは、突然背後から飛んできた何かに気付き無理矢理避けたからだ。ちらと横目で見れば、まさかり。殺気はなかった。罠だろうかと確認もしたかったが、後ろを向くというのはルックに背を向けると言うことだ。それはさすがに危険すぎる。
「しかし、あんたほんとにバケモノだね。よく生きてる」
「君こそ、随分じゃないか。こんなに熱烈なのは初めてじゃないか?」
「じゃあ、もっと歓迎してやるよ」
ルックが妖艶に微笑んで言うと、四方から突風が吹き荒れる。木々はざわめき鳥は空へと飛翔する。風の音だけがマクドールを支配した。一歩、一歩、ロッドに魔力を込めながらルックはマクドールへと近付いていく。どうしようかな、とマクドールが半身をよじった、その時。数瞬前までそこに横っ腹があった位置に、なぎなたが突き出されていた。視覚で認識するまで、まるで気付かなかった。風のおかげで聴覚も嗅覚も塞がれ、視線はルックに向けられて。
反射的になぎなたを掴んで引っ張ると、おまけとばかりに少女が付いてきた。
「…えっ!?」
セラはなぎなたを放棄しようとするが、驚きつつも動きを止めないマクドールに首根っこを捕まれて捉えられてしまう。さすがにずっとそのままではなく、セラの背中からロッドを引き抜くとそれをセラの首の前で固定した。
「これ、なに?」
「こっ、これとはなんですか!」
「ねぇ、ルック?」
「僕の娘だ」
「!!!!!!!!」
憮然と言い放つルックに、マクドールは雷に打たれたに等しい衝撃を受けた。
「むす、め…?ルックの、子供…?そんな、そんな…!!」
「なにか問題でも?」
「私というものがありながら!!ああルック、君は一体なんということをしたんだい!子供が欲しかったのなら私が手を尽くして二人の子を授かる術を探したよ!大体、あ、あ、あ、相手は誰だ!!!!!!」
ルックは動揺したマクドールから目線を外し、斜め下60度を向いて悲しげに微笑んだ。
「まさか……レックナート!!?」
「違うわ!!」
「あの……」
あんまりにもあんまりな方向へ話が進みだしたので、当事者であるセラはおずおずとルックを伺いながら発言する。ルックが止めるそうなら直ぐにでも止めるが、その気配がないのでセラは続けた。
「養女です」
「……………………」
ぽく、ぽく、ぽく、ちーーーん。
「養女!!?」
「何、何か文句でも?」
「少女よ、今日から君のパパだよ」
「いりません。ママがいるので」
「…セラ?」
結局、人質としてセラを取られた守備側の負けが決まったのであった。
「おじゃまします」
「……いらっしゃい」
爽やかなマクドールに対し、ルックはどこか苦笑気味だった。