Ruu様が配布なされているお題、
「暗めで十のお題」
をお借りしました。
配布元はこちら。
□ 魂のおもさ
「善行を積んだ人の魂は、重いのかな?」
「悪行を重ねた人の魂は、重くないの?」
「うーん。最初はゼロなのかな」
「善行をすると重くなって、悪行をすると軽くなる?」
「何か逆っぽい気もするよね」
「魂に重さを付けることなんて無理だとは思うけどね」
「どうして?」
「その魂を想う気持ちなんて、人それぞれだから」
「そりゃそうだ」
「だから魂の重さはゼロ」
「え?」
「プラス、量り手の心持ち」
「君は、僕にどれだけの心持ちをくれるの?」
「君が望むだけ、どこまでもあげるよ」
□ 不謹慎
「悲しきかな、悲しきかな」
「おやお前さん、号外なんぞ見て何を悲しんでおるのかね」
「陛下がお亡くなりもうされた。切なや、切なや」
「なんと、陛下が。そりゃ悲しき、悲しき」
「ほんにねぇ。にしても、お天道様は容赦がない」
「まったくで。暑くてかなわん」
「では旦那、近くに氷でも食べに行きませんかい」
「それはいいな。是非行こう」
「では参りましょう、なに、ほんのすぐの道のりで」
「ああしかし、陛下はお亡くなりか」
「哀しや、刹那や」
「宇治があるといいの。虚しき」
「確かあったはずですよ。苦しき」
「早う食べたいの」
「美味しゅう御座いますよ」
□ 決していさぎよくはない
「さよならにしましょう」
「…どうしても?」
「ええ」
「僕も君も、まだ愛しているのに」
「だけれど、駄目なのよ。ずっと一緒にいれないの」
「寂しい、ね」
「そうね、私もそう思うわ」
「そしてまた、僕達一緒になるのかい」
「…だって、一人じゃいれない。でもあなた以外は嫌なのだもの」
「3度目が終わって、4度目がくるのか。でも」
「嫌じゃないでしょう?」
「ああ本当。僕等二人とも」
「潔くなんてないわよね」
□ つかのまの日常
「退屈だ」
「たまの休日に何を言っているんだ」
「僕の居場所はあそこしかないんだよ。あの閉鎖空間、静かに響く機械音、キーを叩く規則的なようで不規則な音…」
「病気だ」
「ああ何もかもが愛おしい!」
「そんなに研究所が好きなら行けばいいじゃないか」
「休みたい時もある。でもあの空気が欲しい」
「我が儘だなぁ」
「そんな僕のために用意してみました、この一台のテレビ」
「元から家にあったやつだろう」
「これにこのちょっとチャーミングな機会から出たコードを差してみると…」
「味気ないただの箱じゃないか」
「なんと会社にある防犯カメラの映像が見れちゃいます!」
「犯罪だ!なにしてんだ馬鹿かお前!」
「馬鹿だって!これでも僕は博士号を持っているし、メカに関して右に出る者はいないよ!自称でもなく僕は天才だ!」
「よけい質が悪い!」
□ 抜け出せない日々
「お前は勉強もよく頑張っているし、志望の大学も問題ないだろう」
「ありがとうございます」
そんな締めで、私は二者面談を終えた。
私は、そんな大学になんて行きたくない。有名大学だとか、高校の株だとか、そんなの知らない。
でも私は、内心でどんなに嫌だと叫んでも、それは全て声帯で「はい」という言葉に変わってしまう。
もう嫌だと思っても、18年間こうして生きてきたのだ。簡単には変われない。きっかけなんて誰にでも巡ってくるものじゃないし、勇気なんてありゃしない。
「イエスマンだ」
自分で評価。的を射すぎている。
自分で自覚はしている。それはもう、憎たらしいほどには。
だからといって、それが日常。
「抜け出せるわけがない」
私は今日も、勉強をする。
□ 肯定している訳じゃないさ
「あなた、人を殺したの?」
「どうしてだい」
「どうしてって」
「なんだい」
「衣類に付着した血痕に、銃刀法違反も甚だしい日本刀」
「あれ?本当だ」
「嘘ついてなんになるのよ」
「おかしいなぁ。気を付けたんだけど」
「もう!なんで殺したのよ」
「いやだなぁ」
「なにが」
「僕は殺しただなんて言っていないよ?」
「…うぜぇ」
□ 否定できないだけなんだ
「あなた、僕を好きなの?」
目の前にいる少年Aは、事も無げに私に尋ねた。
「何を言っているのよ。お姉さんはガキんちょに興味ないわ」
「そうなんだ。じゃあどうして、僕に構うの」
確かに、最近の私はこの少年Aの元を訪れる。どうしてなのかは自分でも分からない。ぼけーとした見た目に、口調。癒しでも求めてるのかしら。
「どうしてだと思う?」
「僕を好きなの?」
好き?そりゃ嫌いじゃないわよ。可愛いし、ちょっと大きめの甥を持った気分?きっとそうよ、そんな感じよ。
「叔母気分なのよ」
「ふーん。じゃあケッコンできないね」
どき。
……どきとする理由がどこにあるのよ私。
「まぁ本当の叔母甥ならね」
「僕はあなた好きだよ」
「……………あらありがとう」
「あなたは、僕を好き?」
なんて、答えればいいのかしら。
□ 罪の意識なんて
ぐしゃ。ぼたぼたぼた。
動く肉がただの肉になった。食用じゃないけれど、食用にならなくはない。僕は食べないけど。
思い切り斬りつけたので、血がそこらに飛び散っている。
僕も被ってしまい、腕で顔についたそれを拭う。
「汚い…」
はっきり言って、血というものはとても汚いと思う。血を見て喜ぶ殺人者もいるけれど、僕は嫌悪する。
生暖かくて気持ち悪いし、べとべとして不快だ。匂いもきついし、何よりこれが体中を巡っていると思うとゾッとしてならない。
「気色悪い」
言い捨てて、ナイフを拭く。それをきっちりケースを付けてしまう。
「あーあ。もうこの服着れないや」
気に入っていたのに。今度からビニールでも被ろうかな。
とりあえず家に帰って、お風呂に入ってさっぱりしよう。そしたらスーパーに行ってご飯の材料を買おう。あ、何だか肉が食べたいな。豚肉でも買おう。
そこまで考えて、僕はその場を後にした。
□ 殺人と愛とキスと
「人間って難しいと思わない?」
「どう…したんだい…突然」
「こんなに愛しているのに」
女は男の手を取って、それに口付けた。それを抱え上げて立ち上がる。腕の先に体はついていなかった。
男は腕のない肩をそのままに、女に手を伸ばす。それに気付いて女は男の元へしゃがみこんだ。
「なぁに?」
「かえしておくれ」
「いや。私あなたの手が好きなの」
止め処ない血は循環する先を失いどばどばと溢れ水たまりを作る。
もう僅かも時が残っていないことを悟ると、男は女に愛を呟いて事切れた。
「こんなに愛してるのに」
抱えたままの腕を放り投げて、女は無機物の胸に頭を寄せた。
「人間って理解できない。そんな私に、私が理解できるはずもないのかしら」
女は動かなくなった愛しい人にキスをして、もう片方の腕すらも奪っていった。
□ 狂気と哀楽と涙
「ああああぁぁぁぁああぁぁああぁぁ!!!!!」
その絶叫を発しているのが自分だなんてわかっている。でもそんな自分を、冷静に見つめている自分がいるのもわかっていた。
その絶叫の含むものは悲しみでしかないのに、思考の中では楽しみが満ちていた。
荒れ果てた広野には草の一本すらも生えてはいない。そこにあった筈の村が、あるはずもない。
燃えた。火矢が飛んできたのだ。僕のいない内にこの村が何をしたのかなんて知らないけれど、村は燃え尽き、墨になり、風に曝されていて、家族なんてわかるわけがないのははっきりしている。
「あはははははははははははははははは!!!!」
絶叫が枯れると口からは笑いがあふれ出す。
楽しかった。だって家族が嫌いだったから。
僕を追い出して、自分たちの食いぶちだけをどうにか保った家族が。兄妹は他にもいたのに、僕を選んだ両親に、怨みしか募らせることができなかったのだから。
死んだ、死んだ、死んだ!!
楽しくて仕方がない。
でも、哀しい。矛盾した感情にどうしたものかと、僕は二つの絶叫を交互に繰り返した。
その間、涙は僕の頬を伝い続けた。