いつだか作った20のお題。それをSSSという形で書いてみました。
誰という設定も無いので、全部読みきり形式です。
お題だけはこちら。
1 君が100の花を集めるのなら 僕は100の血でその花を染めよう
「どうしてこんなことするの?」
「こんなことって、人殺し?」
「違うわよ。どうして花を染めるの?」
「だって、君に白なんて似合わないよ」
「なによそれ。失礼じゃない」
「親切だと思うけど」
「私は白が好きなの。赤なんて嫌いよ」
「どうして?」
「あなたの色だから」
「僕、赤いかなぁ」
「赤いわよ。だから嫌い」
「赤いから僕が嫌い?」
「あなたが嫌いだから赤が嫌い」
「白くなったら愛してくれる?」
「考えないでもないわ」
「じゃあ赤いままでいようかな」
「……」
「嘘だよ。努力する」
2 人が死ぬのに理由なんてない それでも親しい人には死んで欲しくないって思う
「必ず終わりが来るのは、唯一何事も裏切らない事象だと思うの」
「…まぁ、そうだけれど。どうしたんだい、突然」
「だからね、父さん。人間だって必ず死ぬ訳よ」
「娘よ、そうだけれどね。一体何が言いたいんだい」
「でも食うか食われるかの自然界じゃないのだし、人間は総じて寿命で死ぬべきだと思うのよ」
「確かに、まっとうして、家族に囲まれて布団で安らかに死ぬのが一番だとは思うけれど」
「そうでしょう?だったら父さんくらいはそうして欲しいわ」
「…母さんのことを言っているのかい?」
「そうよ。母さんが車になんかはねられるから、私は10歳にしてこの老けた思考よ」
「母さんが悪かった訳じゃないんだよ」
「わかってるわ。世の中理不尽なのよ」
「そうだね」
「だから、父さんも理不尽に生きればいいのよ。父さんは120歳で、アルプスの山頂の小屋で私とたくさんのヤギに看取られて死ぬのよ。」
「おいおい…」
「私、それ以外は認めないからね!」
「はは、充分子供らしく、愛らしいじゃないか、娘よ」
3 でもきっと 生きるためならあなたを殺すと思うよ
「好きよ。愛してる」
「ああ、僕も愛しているよ」
「ならその銃を下ろしてくれない?」
「いやぁ、君が下ろしてくれたら考えないでもないかなぁ」
「難しいわね」
「だろう?」
「だけれど、このままという訳にもいかないじゃない」
「そうだね。僕は君を愛しているし、同じくらい君も僕を愛しているだろう?」
「ええ、でも同じくらいに仕事に生き甲斐を感じているし。あなたもそうでしょう?」
「もちろん。そこで提案だ」
「なぁに?」
「一緒に愛の逃避行でもしない?」
「ひとりであの世に旅行なんてどうかしら」
「それじゃあ仕方ない」
「どうするの?」
「じゃんけんで決めよう」
「ああ、それないらいいわ」
「「さいしょはぐー」」
バン
「いやね、早出しよ」
「そっちこそ、じゃんけんは終わってないよ」
「ふふふ」
「ははは」
「「やっぱり死にたくはないものねぇ」」
4 どんなにうるさい騒音の中でも あの鈴の音だけは聞き分けられる
ああ、うるさい。
どうしてこんな人混みで待ち合わせなんてしたんだろう。失敗だ。
時間になっても現れやしない。
いい加減、帰ってしまおうか。
そんな愚痴をこぼして、もうどれくらい経つのだろう。
人混みは、まだうるさい。
「 」
遠くから僕の名を呼ぶ人がいる。
ああ、どうして。
君の声は、僕に届くのだろうね。
5 よくわからない違和感が いつまでも消えることなくまとわりついてる
「……」
何かが、変だ。
いつも通りの時間に起きたし、ご飯もちゃんと食べた。
学校だって普通に行って来たし、テストだってそこそこできた。
なのに、何かが、変だ。
なんなんだろう。
消えない違和感。
「ああ、そうか」
ひとつ思い当たることがあった。
小さな時から飼っていた猫が死んだんだ。20年生きた猫で、大往生だったと思う。
まぁ寿命だし長生きしたな、位にしか思わなかったのだけれど。
ずっと一緒だったのだ。家族だったのだ。
「ああ、おまえがいないんだね」
僕は、ちょっとだけ泣いた。
6 身を守る盾を下さい 立ち向かう剣を下さい
「臆病者」
「それがなんだ」
開き直った僕を見て、彼は青筋を立てた。
「いい加減外に出ろ!」
「いやだ」
「弱虫」
「だからなんだ」
この無意味な応答を、いったい何年続けただろうか。
「どうして引き籠もりなんてしてるんだ」
だって恐いんだ。
「逃げてばっかりじゃどうにもならないぞ」
わかってるけれど、でも。
「恐いものは恐いんだ!」
あ。
「…恐かったのか?」
「…恐かったんだよ」
じゃあ、と差し伸べられた手。それを不審に思って見上げると、
「俺が守ってやるよ」
ああ、神様。もしも存在するならば、たった少しの勇気で構わない。僕に、下さい。
「…ありが、とう…」
伝え切れないこの気持ちを、伝える勇気を。
7 あなたは強くなりすぎた 哀れむことを忘れるほどに
「た、助け…」
その命乞いも聞き終わらずに、彼は女の首を落とした。
それで、この村は壊滅。
刃についた血をふき取りつつ、物足りなさそうに哀愁を漂わせる。
「ねぇ、いつまでこんなこと続けるの?」
「さぁ、どうだろう」
刀を鞘にしまうと、私に近付いて、髪に触ろうとする。
「触らないで。血が付くわ」
「血?着いてないよ」
「いいえ、よく見てみて。あなたの手は真っ赤だわ」
「どこにも着いてない」
「真っ赤よ。洗っても取れない。今まで殺してきた人達の血で穢れきっている」
彼は困った顔をして、自分の両手を見つめてる。
「どうしたらいい?どうしたら触ってもいい?」
「もう駄目よ。手遅れだわ」
途端捨てられた犬のような顔で私を見つめる。
「嫌だ。嫌だよ。置いていかないで」
「さよならよ。もしも人間に戻れたら、会いにいらっしゃい」
それまでは駄目よ、と。私は血塗れた大地を歩き出した。
8 自分に貪欲になって 存在感を消さないで
「あら、また独りぼっちなの」
「まぁね。でもそんな言い方をするのは君くらいだよ」
「なに、一匹狼とか言われたいわけ」
「そうじゃないけれど」
「いい加減人の輪に入ってみようとか思わないわけ?」
「うーん」
「今教室にあなたがいないこと、誰もいない机でしか判断されてないわよ」
「だろうねぇ」
「もうちょっと、一生懸命生きてみようとか思わない?」
「これでいっぱいいっぱいさ」
「人に気付かれないことに一生懸命でなんになるの」
「気が楽になる」
「いつも張りつめて見えるわ」
「……まぁ、あながち外れてはいないよ」
「だったらもっと楽に生きてみなさいよ。ばーか」
9 あなたと二人で見上げる夜空
「ああ、空が綺麗だね」
「そうかしら」
「綺麗じゃない?」
「だって、あの光っているのは所詮星屑でしょう」
「いや、うーん」
「見せかけよ」
「でも、綺麗だろう?」
「…そうね」
「なら、いいじゃないか」
「…………あなたが星ばっかり見てなかったら、私だってそう言うわよ…」
「え?何か言った?」
「別に!」
10 見上げた空は灰色だけど カラッポの心はうまっていった
僕は病気だ。
いや、実際は違うのだけれど、母がそう思っている。
それで僕は外に出してもらったことがない。
ずっと家の地下で、母と二人きり。
束縛された人生。
僕は気付く。「自由」を知らなくても、それを願うのだと。
ある日、母が買い物に出かけた。
それは初めてでなかったのだけれど、衝動に駆られた。
今なら、逃げられる。
僕は走り出した。鍵のある場所を知っていたから、バタバタとその場所へと向かった。
そして飛び出した。階段をおぼつかない足で駆け上がって。
外に。
風が僕を撫でた。
澄んだ空気。天井のない空。
ああ、ああ!!
僕は泣いた。止まらなかった。
僕は、自由だ。
11 始まる未来があるのと同時に 終わった過去があるのも確か
振り返れば私がいた。
私は確かに一本道を歩いてきたのに、振り返れば様々な分かれ道が見える。
前を向けば、やっぱり一本道。
昔の私は、誰もが正しいと思う道を歩いてきたのだ。
そこに自分の意志があったかはともかく。
だったらこのまま歩いていてもいいよね。
なんて思った途端。走り出した。
くねくね曲がっている道なんて無視して、私は奈落の底に飛び込んだ。
あれ?
でもそこにはしっかりとした地面があって、私は何につかまることなく、自分の足で立っている。
なんだ。案外簡単なものだ。
私は過去を振り返って、前を見た。
もう、自由な気がした。
12 手を繋ぎ 二人だけの歌を奏でよう
『君がいればそれでいい』
僕等は生まれたときから一緒で、ひとつだ。
どうして私達にそれぞれを識別するなまえなんてつけるの。
ふたつでひとりなのに。
全てを共有したいのに。
僕等を指す記号、ひとつあればそれだけでいい。
私達は互い以外誰もいらない。
全部、全部、闇の中、僕等だけでいたいのに。
ああ、
『生まれてきたくなんてなかった』
13 神が我々の創造主であると言うのであれば その神はいったい誰が創ったというのだ?
「敬虔なる神の神子である君に、尋ねたいことがあるんだ」
「あらなぁに?私に答えられることならば、お答えするわ」
「カミサマとやらは実在するのかい?」
「神を信仰する私達の心の中に実在します」
「カミサマとやらはいったい何をしてくれるんだい?」
「我等を創り、その後見守り続けて下さっています」
「神が我々の創造主であると言うのであれば、その神はいったい誰が創ったというのだい?」
「もちろん、私達人間です」
「ああ、メビウスの輪のようだね」
「そうね、もしくはウロボロスかしら?」
「ウロボロス?」
「自らを喰らう蛇」
「なるほど。ところでもうひとつ」
「なぁに?」
「君は信仰者かい?」
「あら、敬虔だと言ったのはあなたじゃない」
「そうだけれど」
「まぁ、あなたの買い被りだったのは確かだわ」
14 未来に繋がる選択肢
「私、北アフリカへ行きたいの」
「突然どうしたの」
「前から行きたかったの。卒業したらすぐに行くわ」
「そう。僕は捨てられちゃうんだ?」
「いいえ。私が捨てられちゃうの」
「どうして?」
「だって、あなたは着いてきてはくれないでしょう?」
「うん。僕はイギリスに行くからね」
「ほらね」
「でも、君だって着いてきてはくれないじゃないか」
「うん。やりたことがあるから」
「それじゃお互い様だ」
「また会えると嬉しいわ」
「また会えることを楽しみにしてるよ」
「「さようなら」」
愛しい愛しい恋人よ。
15 はにかむ笑顔 これが私の精一杯
「あなたの笑った顔が見たいな」
彼のその発言は、私のアイデンティティを大きく揺るがすものだった。
基本的に私は笑わない。おかしなことがあっても、人前では必死に堪える。
その苦労を知ってか知らずか、彼はこんなことを言うのだ。
だって、そういう私だから好きになってくれたんでしょう?それを崩したら終わりだわ。
でも、これを断ったら私ってすごく嫌な女じゃない?
どうしたらいいのかしら。
笑顔が見たい、なんて言われたのは初めてだから、正直なところ凄く嬉しい。
だけどその挙げ句が彼の望んだものじゃなかったとしたらどうだろう?
ちらと彼を見てみれば、ニコニコ笑って私を見てる。
あぁ、この笑顔が裏切れない。
私は覚悟を決めた。
「…はは」
浮かべた笑みがどんなものか、自分で見えないのは道理だけれど。
「あぁぁああぁぁ!!やっぱ無理ぃっ」
顔を覆う私に、彼が近付いて、背伸びして頭を撫でてくれたから。
なんだかもう、それだけでよくなった。
16 もう会えないとわかっているけど それでも呼び続けるのはあなたの名前
「 」
誰もいない。
「 」
返事もない。
枯れない涙。愛しき貴方。
ああ、どうして。
「帰ってきて…」
さめざめと、廃墟と化した家で座り込む。
あいたい。あいたい。
「 」
愛しい人。
「 」
「はぁ〜い」
振り返れば、あの人と似た眼差し。でも、あの人じゃない。
「 」
「なぁに」
「ちがう、ちがうっ!おまえじゃない、おまえなんかじゃない!!」
ヒステリックになってる。自分でもわかるけど、でも、あの人を殺したのは、あの人の兄。
「…ねぇ、いいじゃないか。お互い報われない片思い。僕を弟の代わりにしてよ。代わりでいいんだ」
「安い男」
「それだけ、君が愛しいんだ」
「 」
「うん」
「ちがう。お前なんかじゃない。もういない、もういない」
「僕を、愛して…」
お前など、代わりにもなりはしない。
17 2番目だっていいじゃない たまには気を張らず 一番を誰かに譲って
「かっこわるい」
「…は?」
「ださい」
「…中学時代のジャージを着ている君に言われたくはないね」
「ばっかねー。そこがぶさいって言ってるんでしょ」
「…」
「気の短い男!要するにね、ステータスばっか高めるのに必死で、周りが見えてないって言ってんの」
「…余計なお世話だよ」
「まーまいいじゃないの。1番ばっかとってても、もっと大事なこと憶えないと社会に出てもすぐに廃れるぞー?」
「…なんだよ」
「世渡り」
「…やっぱり勉強しようかな」
「あーコラ!」
18 愛情の浅い内に サヨナラしましょ
「終わりにしましょう」
「そうだね、これ以上はまずい」
手を握って、今までありがとうと握手をする。
お互い傷つかないように、利害一致で「恋人」をしてきた。
でも、それが崩れる。
互いを守る盾が、突如姿を変えて剣になった。
「好きよ。でもこれ以上は駄目」
「好きだよ。でもこれ以上は終わりが恐い」
今ならまだ、きっと大丈夫。
「…サヨナラ」
「…ああ、サヨナラ」
だけれど握られた手は、緩まない。
「…あれ」
「…どうしよう、か」
ああ、もう手遅れ。
19 それでも君は夢を見た
「飛んでみたいな」
「バンジーでもしてこい」
「そんなんじゃなくて」
「人間に生身での飛行は無理だ」
「できるよー。ちょっと命がけだけど」
「それならバンジーで充分だろう」
「んもう夢がないなぁ」
「そんな夢いるか」
「ねぇ、ちょっと『死ね』って言ってみて」
「嫌だね。そしたらお前死ぬんだろう」
「あれ、それって死なないでっていう僕への愛のプロポーズ?」
「そうだよ」
「いやん僕もアイシテルー」
20 ごめんなさい ごめんなさい 謝るしかない僕を どうか許して下さい 言い訳すらできない僕を どうか許して下さい
「どうして殺したの」
「ごめんね」
「ねえ、どうして」
「ごめんねー」
「ちゃんと答えてよ」
「許して欲しいな」
「ふざけないで」
「ねぇ、許してくれる?」
「どの口でほざくのよ」
「この口?」
「許さない」
「あ、やっぱり駄目?」
「…ねぇ」
「ごめんね」
「どうしてよ」
「ごめんね」
「なんで殺したのよ」
「ごめんね」
「お前など死んでしまえ」
「ねぇ、許して