第六章

 

「私達には寿命がない。ここではない別の世界で、時間を無為に過ごしていた。そんな時ある者が言った。私達で何か作らないか?それがきっかけ」

 エルヴィスはこの世界が気まぐれの賜物だと知っても、驚くでもなく落胆するでもなく、黙って話を聞いていた。

「私達はまず土台を造った。高い高い山や、どこまで続くかも見えない深い谷、見渡す限りの広野。そこに私達は様々なものを造った。ある者は山に、広野に緑を。ある者は、深い谷に大量の水を注ぎ込み海を。ある者は、君が今している酸素を」

「貴方は…何を造った?」

「私は…ヒトを造った」

 何かの神話で、「チャク」というのは雨の神だと訊いたことがあるが、アスファルからきているものではないのか。エルヴィスは内心そう思った。

「私は創造主の中で誰よりも最後に事を成した。他の創造主はヒトを造った私を讃えたが、愚かな行為でもあったんだ。ヒトは素晴らしい行いも沢山したけれど、利欲に溺れ、一度世界を滅ぼしている。長い年月を経て、回復したけれどね」

 あまりに有名な史実。紀元後にして五千年程経ったとき、発達した文明を飲み込み、世界の殆どは崩れ去った。

「人間を造ったことを、後悔、している?」

「いいや。きっかけは気まぐれでも、どんなに愚かな行為をいても、私みたいにこれだけ長くいれば愛情が生まれる。ヒトは愚かだ。しかし尊い。私が造ったんだ。子を思わぬ親がいぬように、私もまた、愛しくないはずがない」

 本当に愛しそうな目をして、アスファルは二つの月を見上げた。

 しかしエルヴィスは矛盾を感じていた。

「ならばなぜ、愛してやまない人間の死体を自ら埋めてやる。ただ辛いだけじゃないか」

「愛しい故」

「僕にはわからないよ」

「千も生きぬ若人には、まだ早い問だもの」

 無茶言わないでよ。思いっきりそんな顔をして、エルヴィスは笑うアスファルの顔を見た。

「はは、いいじゃない。残りの人生、解定まらぬ問に苦戦してごらんよ。君のあらん限りの知識を駆使し、これから憶える感情を加え、死んでしまう前日にでも、自分なりの答えをだせばいい」

「それも、悪くないかもね…」

 苦笑して、そう答えた。