「それで結局、何処に行くんだい?」
「ディスカリス。ここから半日くらいのところ」
「ああ」
そうではなくて、と。
「君が最終的に目指す地は何処なんだい?」
セイはじっとディアーナを見る。一度は止まりかけた歩みも、すぐに何事もなかったかのように進む。
そして口を開いた。
「最南の地ファレディルト。神の住まうとされる天空が見える岬の協会」
「天空が見える協会?神を信じてはいないのに?」
「それでも…行かなければならないんだ」
「そう…君が行くというのなら、私はそれに着いて行くだけさ」
数歩ディアーナの前を歩いていたセイは、勢いよく振り返った。
「あんたそこまで着いてくる気!?」
「もちろん。君が願いを叶えるまで」
盛大なため息を吐いて、諦めたようにセイは天を仰いだ。
地平線は続く。ディスカリスまではまだ遠い。眩しい太陽を遮るものは、旅装の外套だけ。旅荷はできるだけ最小限に抑えてあり、邪魔にはならない量だ。
セイの腰には、一つの鞘に二本の剣が収まっていた。まだ未成熟な十三、四の子供には、何処か不釣り合いだ。
一方ディアーナは旅荷も護身用もなく、至って軽装。今までそれでどうしていたのか不思議なほどである。それについて本人が気にしている様子はまるで見受けられない。
セイはため息を吐きつつ空を見上げた。
見上げれば青。白一つない忌々しいほどの晴天。ジリジリと照り付ける太陽。それでも、片方を覆ったために遠近感覚の多少狂ったセイはそれが嫌いではなかった。なぜなら、ただ一色なら違いも何も判らないからだ。
「灰色でも良いんだけどなぁ」
「何がだい?」
「空」
つられるようにディアーナも空を見る。
「私は雨の方が好きだけれどな」
「ふぅーん」
「はは。まぁ、好みなぞ人それぞれだからね」
歩く、歩く、何処までも。
目指すは最南ファレディルト。
さぁ見えてきた。まずは初めの第一歩。
「水深き村ディスカリス」