協会は村に相応しく極質素なものであったが、木材を基調とした暖かみのあるものであった。夕方という時刻は皆田畑にいるのか、がらんとしている。

 セイはゆっくりと歩き、前かから三列目のところにそっと座った。それに従い、ディアーナはその隣に腰を下ろした。

「…」

 セイは見上げるように、中央に鎮座した水神シルヴィヌスの御神体を見つめる。ただ無表情に、視線を逸らすことなく。それでもその目は、どこか悲しみの色に染まる。

「『我等人の子等、神に仕え、神を崇め、そしてその恩恵を御身等から受け賜う』」

 ディアーナは祝詞を朗々と、響く声で紡ぐ。か細いわけでも怒鳴るわけでもなく、高々と。人の心にしみ込む声で。

「『祈りは御身等の力となり、世界を潤す糧となる。恵みは我等を生かし、我等はそれを感謝し祈りを捧ぐ。ああ神よ。我等御身等を忘れる事なかれ。ああ神よ。御身等我等を見捨てる事なかれ』」

 左手の甲に指で水神を表す文字を書き、それにキスをする。

「『アーメン』」

「………あんた、祭司なわけ?」

「まさか」

 御神体を見上げたままのセイがディアーナに尋ねると、笑ってそれを否定した。ディアーナはそのまま少し笑い続けた。

「はは。ああ、お出でなすった」

「え?」

 セイが振り返ると、一人の女祭司が微笑んでこちらに歩み寄ってくる。

「やぁ、シャース」

「こんにちは、ディーナ?そちらは何というお名前かしら」

「え、あ…セイ、です」

 突然現れたシャースというらしい女祭司に驚くセイを尻目に、ディアーナは旧知らしく話している。

 ジッと見過ぎていたのか、シャースは振り返りセイに笑い掛けた。

「セイ。祈りの果てに何を願いますか」

 微笑むシャースの目には虚偽を許さない光りを湛えていた。それから視線を逸らすことが出来ず、自然と涙が浮かぶ。縋るように、セイは尋ねた。

「贖罪は…許されるのですか…罪は、贖うことが、許されるのですか」

 軽く目を見開いたシャースは、顔を引き締め、セイを抱きしめながら言った。

「懺悔なさい。そして再生を望みなさい。神は、貴方と共にいるのですから」





 翌日、セイとディアーナはディスカリスを発った。

 変わらぬディアーナに、セイはどこか安堵して。

「さぁ、次は何処かな?」

「夢見人の街カーントル」