「ここがどうして、夢見人の街などと呼ばれているか、知っているかい?」
「多くの人が過ぎた夢を見て、何人もそれを叶えているから。実際は一握りだけど」
「いいや」
街中を歩きながら、セイの答えに違うと応えた。
「この町にはね、貘がいるんだよ」
カーントルは観光地として有名だ。カーントルから輩出された様々な分野の著名人。その博物館や展覧会が数多くあるのだ。
「結局、そいつ等を街が喰い物にしているだけしゃないか」
「そうとも言うね。しかしそれで富を得るというのも、また夢なのだよ」
そんなものですか、とセイはため息を吐く。
街を見渡せば、往来を行き交う人々。華やかな商店街。大きな噴水を中央に置き、縁系に広がる都心。
「ディスカリスとは大違いだ」
無感動にそれ等を見やり、セイは宿屋を探した。
「おや、あそこにあるよ。あそこにも」
「観光地なだけあるよ。まぁ、わざわざ船でここまで来る人の気も知れないけれど」
通り過ぎる人の中に、この大陸とは別の特徴を持つ人々を幾度も見つけた感想であった。
結局、二人は割と都心から近い宿に泊まることにした。
「さて、行こうか」
そこそこ安い宿ではあるが、十分なほどだった。その部屋に着いて、ディアーナはセイに言った。
「何処に?」
「もちろん、協会へ。行くつもりだったのだろう?」
セイは顔をしかめて、一度下ろした荷物を手に取った。
「協会か…この街は雷神を信仰しているけれど、皆あまり熱心ではないね」
「ああ、確か、夢は祈るものではないっていうのが信条らしいね」
「ねぇセイ。カーントルに来たのなら、協会の後でいい。貘に会っていかないかい?」
訝しんでセイはディアーナを見て尋ねた。
「貘ってのは伝説上の生き物だろう?それに会おうって言うの?」
「貘の存在は架空ではない。本当にいるし、悪夢が好きなんだ」
ニィと笑って、ディアーナは人差し指を口元へやった。
「…別に良いけれど、会ってどうするって言うのさ」
「きっと、いいことがあるよ」
何やら楽しそうに笑って、空を見上げる。
セイはつられるように見上げるが、あるのは変わらぬ平面な空。
俯いて、そっと覆われた左目に触れた。