「さて。貘に会いに行こうか」

「って、どこにいるのさ」

「まぁまぁ、ついておいで」

 前を行くディアーナに置いていかれないように、セイは早足で駆け寄った。

 すいすいと、まるで混雑をないもののように進んでいくディアーナは後ろを見ない。このまま別れて、また一人旅に戻ろうかとすら考えたセイだが、それもなんとなく癪で一生懸命その後を追った。

 町外れの簡素な海辺。そこまで来て、ディアーナは漸く歩みを止めた。

「もう、あんた早いよ」

「ははは、ごめんね?」

 笑って、ディアーナはつと視線をあげた。

 その先に見えるのは、大きな白い風車だった。

「やぁはじめまして、夢の者」

「おやはじめまして、空の者」

 ふ、と僅かな風だけを発生させ、極静かに風車のてっぺんから降りてきたその人影に、ディアーナは挨拶をした。

「ところで空の方、私なんぞにご用でも?」

「君に用と言ったら、悪夢を喰らうことくらいしかないじゃないか」

「そいつぁ失礼ってもんですよ。私にだって友くらいいますからね」

「それは済まないね」

「いいえ、そう言ってもらえれば。それで、どんな悪夢を喰わせもらえるんで?」

 ディアーナに向けられていた視線をセイにくれ、貘はにっこり微笑んだ。

「お前さんは、悪夢持ちだぁね」

「!」

 貘の言いに、セイは驚きつつもムッとした。初対面の相手に、いきなりそんなことを宣言されるいわれはない。黙っていると、貘は笑い出す。

「こりゃ失敬。でも、折角ですからね。」

「なにが…」

 折角なのか。聞こうとして、しかしそれは貘の発言に飲み込まれる。

 それに、とセイの目を見て貘はにやりと口の端をつり上げた。

「なかなか美味そうだ」

 覗き込まれたのは無いはずの左目で、きっちり包帯で覆っているのに眼窩を全てさらけ出している
気分になった。

 どうしようもなく不安になってディアーナを見やれば、にこりと笑って手を振られた。

「おやすみ、セイ」

 訳が分からないセイだったが、どんどんと眠気が襲ってくる。眠りたくはなかったが、どうがんばっても瞼は下がり続ける。


 そして完全に右目は閉じられ、セイは貘へと倒れ込んだ。