放課後、いつもの帰宅路を歩く。部活なんて面倒なものには入っていないので、家から近いから、何て理由で進路を選んだ俺はかなり早く家に着く。

「!」

…一体、こいつは何だっていうんだ。

「おい、あんた。俺に何か用か?」

 古風な黒いスーツ。すり切れた黒い靴。目深に被られた黒いシルクハット。それに反する青白い顔。昼間の男だ。

 男は静かに口を開く。

「お前は明日、人を殺す」

「!?」

 そいつは唐突に意味深な言葉を吐いて、昼間と同じく背景に同化するように消えていった。

「…くそっ、ムナクソわりぃ」



 その後家に着いた俺は、自室のベッドに横になる。時間が経っても、恐らく今日はこの不快感は消えないだろう。

「人を殺す…か」

 いくら生き物が好きじゃないって言っても、殺すことに対して平気な訳じゃない。しかも犬猫の話ではなく、人間。俺は無関心な訳でもない。「死」に対する恐れだって人並みにある。

 しかも明日。ろくに考える時間もない。いや、例えあったとしても結論なんかでない。

「…。俺はなに真面目ってんだ」

 くそ。あいつが普通にいなくなればこんなに考えないのに。考えてしまわないのに。

 俺は飯も喰わずに眠りに着いた。





翌日、俺は通学路を通り学校に向かう。いつもとは違い、眠気のない顔で。

早すぎる就寝は早すぎる起床を余儀なくさせる。16時半頃に寝た俺は、夜中の三時頃に起きた。二度寝しようにも、十時間以上の睡眠を貪ったのでそれも適わず。前日出た宿題をやっていないことを思い出しそれをゆっくりと時間を掛けて仕上げる。

しかしそれも一時間もすれば終わってしまう。

暇だ。そして行き着くのは昨日のこと。

誰を殺すんだ?俺は。そもそもあの男は誰だ。もし本当に俺が殺人をするとして、なぜあの男はそれを知っていて、なぜ俺に教えたんだ?予言差者だとでもいうのか。

は、そんな馬鹿げたものがいるかよ。



いつもより早く教室に着くと、一生懸命宿題をやっている悠人の姿が見受けられた。やっと懲りてくれたようだ。

ふと悠人が振り返り、おずおずしながら俺のところに来た。

「なぁ…豊。ここ教えてくんねぇ?」

「…お前なぁ」

「う」

「最っ初から判ってねぇんじゃねぇかよ。いつもおれに頼ってばかりいるからだ」

「う、うん…」

 そう言って、しょげて席に戻ろうとしている悠人を引き留める。

「だからそこは、お前が寝てた時にやってた方式を使うんだ」

「…え?」

「教えてやるから椅子とノート持ってこい」

「お、おう!」

「あ、貴史。お前もつき合え。道連れだ」

 丁度教室に入ってきた貴史を呼び止める。何のことか判らずに貴史は訝しんで俺を見るが、椅子とノートを持って来る悠人を見て納得したようだ。

 貴史はわりと聡い。

「そうだな。俺も二、三個わからんのあったし。つき合うよ」

「まぁ後一五分だしな」

「げっ、マジかよ」

 ノートを開いて準備が丁度できた悠人が焦って言う。確かに、終わらないだろうな。数学は一限目だし。

「終わらなかったら見せてやるから、それまでは自分でやれ。判らないのは教えるから」

「お願いします…」



 貴史はやり方を教えると、スラスラ解けた。自分のが終わると悠人に教えていた。悠人は結局半分も行かないくらいの所でタイムアップ、ゲームオーバーだった。俺はSHRの時にノートを貸し、終わったら返して貰った。

 一限目、悠人は自分でやったところを当てられ自信なさそうに答えた。しかし、正解だったのでかなりほっとしていたみたいだ。