家はすぐそこだったので、荷物を置いて着替え、財布と携帯だけを持って外へ出る。
俺が殺すのは悠人か?貴史か?それとも二人か。あいつは、人数は言わなかった。いや、俺次第だと言ったんだ。死ぬのは誰だ。俺に殺されるのは。
埒があかない。とりあえず、行くしかない。
「あ、豊!」
「お前遅いぞ」
俺が駅前に着いたとき、既に二人はその場にいた。
こいつ等なのか?いや、駅にいる赤の他人かも知れない。
誰とも知れない。どことも知れない。いつもと知れない。
ただ、今日とだけ。
「…どうした、豊?」
「え、あ、別に」
とにかく、何か起こるまではどうすることもできない。
俺達はその場を離れ、ゲーセンに行ったり、本屋、靴屋、CDショップなど数件をハシゴし、駅前にまで戻ってきていた。
まだ何も起きない。
俺はそれに安心しながら、何処かでいつまでこの恐怖がつきまとうのかと焦っていた。
「あの司会者ウケたよな!なぁ豊」
「おい、豊?」
「あ…悪い。聞いてなかった」
「何だよー。俺がせっかく話してたのに」
「…豊、お前いい加減にしろよ」
「え…?」
貴史が唐突に言い出した。いい加減にしろだって?いつもはこんなこと言わないのに。いや、そもそも何が気に入らないって言うんだ?
悠人が突然怒りだした貴史を見て、慌てて取り繕う。
「た、貴史?別に俺そんな怒ってねぇし…」
「そうじゃない」
違うのか?じゃあ何に対して怒ってるってんだ。
「豊、今日ずっとお前らしくないな。何をそんなに気にしている?何をそんなに焦っている?何をそんなに、脅えている?」
「!」
「お前はいつも俺達との間に線を引いているな。それは判っているし、いつかその線を越える日が来ると思っていた。だがお前にはその気がない。そうだろう?」
「…」
図星だった。何も、言い返すことができないほど的確な表現。
「引かれた線は越えさせない。近付かせない。そしてお前はこんな時にも越えてこない。一人で問題を抱え込み、その片鱗は感じさせるのに明かさない。それで黙って見守ってられるほど、俺はお人好しじゃない。豊、何があった?」
「貴史…」
聡い、とは思っていた。しかしここまで感づかれるとは思っていなかった。
予想外の貴史の攻撃に、俺は焦りを増す。
「…俺」
俯いていた悠人が、顔を上げずにぽつりと話し出した。
「俺、バカだし、豊のこと気付かなかったけど、もう知ったからな!絶対話させて、手伝うからな!」
「悠人…」
それでも俺は、二人に言ってはいけない気がした。