二人は電車に乗り込んできた。ドアが閉まる。

「貴史…悠人…」

「はぁ、はぁ、はぁ、あ――しんど!」

「お前等…」

「何だよ」

 悠人は座り込んでしまったが、貴史は涼しい顔をしている。

「お前等…切符は?」

「…」

「…」

「…何だよ」

「まず言うことがそれかよ…」

 二人は呆れ顔で俺を見て、疑問に答える。

「豊、忘れた?俺は電車通学ですー。定期定期」

 …ちょっときもい。ああ、でもそういえば電車に乗り遅れて遅刻、何てざらにあったな。

「俺は無断乗車」

「…あはは…」

 ふんぞり返る貴史に、乾いた笑いをする悠人。

「ミスったな、お前。逃げ場ねぇぞ」

 くそ、俺はまだなにもしてないのに、どうしてこんな尋問紛いのことされているんだ。

「俺は…」

 俺は黙り込む。時間を稼げ。もう意地はいいが、人を殺すと言われたことは話したくない。

 …来た!

「きゃっ」

「すみません!」

 俺は今ここを通ろうとしてドアを開けた女の人を押しのけて走り出す。今いるところはわりと端の方だ。

「おい、豊!」

 車窓から外を見る。

 もう少し。もう少しのはずなんだ。

『西口、西口に到着します』

 よし。この狭い一方通行の電車では到底逃げ切れない。まず出なければ。

 アナウンスが続くが、乗客が騒ぎ出してよく聞こえない。

 プシュウ…

 ドアが開くと、俺は勢いよく飛び出した。が、右隣のドアから悠人と貴史が出てきた。

「「あ」」

「げ」

 パシ。と、俺の腕を捕らえる悠人。

 …捕まった。