「豊…」

「何だよ、じゃあなって。轢かれちまったじゃねぇか」

 ああ、そうだな。俺、轢かれたな。轢かれた筈なんだけどな。

「何お前。何で助けちゃってんの?」

「…唯の気まぐれだ」

 そいつは俺を、磨き上げられた木の杖に掴まらせた。その杖はなぜか浮いていて、それに掴まっている俺も浮いている。そいつは空中に立ったいる感じ。黒い装いの、あの男。

 悠人と貴史は、俺の十五、六メートルくらいだろうか、下にいる。何だよ。俺ばっかみてぇ。あーもう、しょうがねぇかぁって思ったのによ」

「…ならば助けぬ方がよかったか」

「いや。儲けたな」

「…」

「なぁ」

「何だ」

 俺が呼びかけると、不機嫌な声で応えた。

「何で教えてくれたんだ?俺が人を殺すって。まぁ、殺さずに済んだけど。死なずに、か」

「…」

「何だよ、いいじゃねぇか。教えろよ」

「…お前が、今生きているヒトの中で一番、世界を尊んでいるからだ」

「!」

 俺が心底吃驚した顔をすると、そいつは口元に嫌な笑みを浮かべた。

「貴様は生き物が嫌いだとほざきながらも、己の中で一番生き物が好きでたまらなかったんだ。枯れそうな野花があれば、水を与える。野良猫を見れば、家から餌を持ってきて与える。事故があれば顔にださずとも、誰よりも嘆く。あの小僧二人が貴様を頼れば、手を貸さずには…」

「だ――っ!判った!判ったから黙れ!」

「フフ、何だ?貴様が聞いたのだろう?だからわしは懇切丁寧にだな。…まぁそう睨むな」

 俺は盛大で嫌味なため息を吐いた。あいつが堪えるとはとても思えないが。

「おい。もう一つ良いか」

「何だ?」

「お前は誰だ?」

「…ヒトの子には言えん。これはわし等の誓いだ。貴様等の誰かに、ある奴が話すその時まで」

「?」

「それはきっと、飽きる程の遙か未来」

 俺には何を言っているのかよく分からなかったが、そいつの表情を伺うに、何か大切なことなのだろう。

 でも少し興味が沸いたので、尋ねてみる。

「…その『ある奴』が決めたのか?」

「違うな。わし等で決めた。そいつには言わずにな。未だ言っておらんが、恐らく知っているだろう。そういう奴だ」

「ふーん。まぁ、俺には全然判らないし、いいけどな。でも、お前の名前くらい良いだろ?」

「…リシウェント・ラジー・リズリ」





「豊?無事だったんだな!俺てっきり死んじまったかと…」

 悠人は目に涙を溜めて言う。

 俺はあの後、そこら辺に下ろして貰った。リシウェントはすぐに消えてしまったが、なぜか杖を置いていった。くれたのか?

 そして、駅のホームでボーっとしている二人に声を掛けたのだ。

「まったくだ。一体どうやってあの場から逃れたんだ?」

 貴史に涙はなかったが、目が赤かった。

 俺は「明日人を殺す」と言われたときからの話を、所々飛ばして話した。…捏造したり。

「それで俺は、轢かれると思ったときそいつに助けられ、空に浮くという不思議な体験をしちまったわけさ。まったく。最後まで何者か判らなかったな」

「確かに、不思議だな。俺も会ってみたかった」

「なぁなぁそれってやっぱ、神サマってヤツじゃない?」

 …そんなの、「予言者」より馬鹿げてる。









「柩の〜」からさかのぼる事○千年。現代に程よく似た時代でした。
何か名前が日本語なので変な感じ。
私は現代もの苦手です。書きにくい。
かといって架空世界が得意という訳ではないですが、言い訳が効く。
こういう設定何だ!といえはそれで丸く収まる気がする。
気だけではない気がする。