昔々のあるところ、一人の魔女がおりました。


 
魔女のお話


 森の奥にひっそりと、慎ましく魔女は暮らしていました。

 その魔女は、最後の魔女でした。

 昔々の更に昔、世の中には魔女が沢山いました。しかし人々は、自分の知らない不思議な力を操る魔女等に恐れおののき、「魔女」を異端としました。

 そして、魔女狩りが始まったのです。

 魔女達は散り散りに逃げ、桑や鋤を手にした人々に殺されました。それだけでは飽きたらず、神の十字架と言って貼り付けにしたり、生きたまま銅と変わらない太さの杭で貫いたりしました。

 数で圧倒的に勝り容赦のなかった人々に、魔女等はどんどんと減っていきました。

 そしてとうとう、魔女は一人になりました。

 最後の魔女は若い娘でした。若さからの体力と、修行中の魔女の力で命からがら生き延びたのです。済んでいた地から北へ北へと逃げ続け、ようやくこの森の中で定住できると喜びました。小さな村からも離れた深い森。うち捨てられた小さな小屋と、寒いながらもきちんと繁っている植物。ここなら生きてゆける。魔女はそう思いました。

 事実、魔女はそこで一年を平穏に暮らしました。

 地を耕し種をまき、水を与え日光を確保しました。森の中で自生している食用にもなる草花、木の実などを探しました。動物たちと戯れ、魔女としての勉強をし、魔女は幸せに暮らしました。

 幸せだったのです。自らが魔女であることが、どういう事なのかを忘れてしまうほどに。

 魔女は暖かくなってきた春のこと、芽生えだした食用の植物を採っていました。花も咲きだし、魔女は誘われるように進んでいきます。

 ふっと、生い茂った森の木々が影を落とすのを止めました。いいえ、正確には、木が切り倒された為に空を仰げたのでした。

 魔女は悲しみました。森が死んでしまうと。残された切り株がいくつもいくつも、綺麗な断面を見せて泣いていました。魔女は一つの切り株の傍にしゃがみ込み、手を置いて泣きました。魔女には、どうすることも」できなかったのです。

 ガサ、と音がしました。魔女が音のする方を向くと、目を見開いた男達がいました。手には斧を握っています。木を切りに来たのでした。

 魔女は口を開き、木を切らないで欲しいと訴えようとしました。しかし、男の一人が指を差し叫びました。

“魔女だ!!”

 魔女はびくりと驚き、一歩後ずさりました。ですが、魔女はあまりに無惨な姿になっているこの森を思い、男達に言いました。木を切らないで下さいと。

 男達は、魔女が木を切っていた自分たちに呪いをかけるのではないかと思いました。そして、魔女に罵声を飛ばしました。禁忌の術を使う神の反逆者であると言ったのです。

 魔女は否定しました。魔女とは、人々が忘れてしまった自然との共存の仕方を学び、知り、行う者達のことだったのです。

 ですが、男達は信じません。魔女が一生懸命に説いても、男達の顔は恐ろしい形相のままです。

 おもむろに、一人の男が斧を構えました。すると、それにつられるように残りの男達もゆっくりと斧を構えました。

 魔女は走りました。彼等に何を言っても通じそうになかったからです。

 魔女を追って、男達も走り出しました。怒声をあげて、待て、殺せ、と斧を手にしていました。

 そして、すぐに魔女は捕まりました。

 魔女は助けを求めて叫びましたが、来たのは村の人々でした。魔女は取り囲まれて、いくつも振り下ろされた斧に殺されました。

 人々は喜びました。近いところに忌まわしい魔女が住んでいましたが、呪いを受ける前に退治できたと思ったからです。

 一人の村人が言いました。

“十字架にかけ火を付けましょう!”

 その提案に、村人は、それはいいと賛成しました。早速斧で木を切り倒し、簡単な十字架をこしらえました。肘から下がなかったり、胴と足が半分しか繋がっていませんでしたが、どうにか十字架にくくりつけることができました。

 そして、火は付けられました。ゆっくりと燃えだした火は次第にごうごうと燃えだしました。

 その時です。小さな地鳴りが聞こえました。しかも、だんだんと近付いてきます。

 村人達が森の深い方を見ると、土煙をあげて様々な野生の動物たちが駆けてきます。

 村人達は慌てて逃げますが、動物たちにはまるで敵いません。嘶いた馬が頭を踏みつぶし、ねずみは一人に群れて歯を立てます。熊は爪をふるい血が飛び散りました。小鳥たちは目玉をつつきえぐり出します。犬は首にかぶりつき、いのししは牙を突きだし跳ね飛ばします。他にも多くの動物たちが村人を襲いました。

 そして、燃えさかる火を恐れもせずに魔女を十字架から下ろし、動物たちは魔女を囲みました。汚れた頬を舐めたり、鼻先で手をつついたりしますが反応はありません。動物たちは、魔女がいなくなってしまったことを認めました。

 一晩動物たちは祈るようにその場に留まりました。翌日、少しずつ、みんなに行き渡るように魔女を食べました。それは、動物たちの弔いでした。



 そして動物たちは去り、その場には村人の死体と、開けた空の青だけが残されました。













裏に回そうかとも思ったけど…これくらいなら大丈夫かな、という思いのもとここにアップ。
リハビリ作品です。
最近絶不調なので、学校でちまちま物語り調に書いてみました。