序章



 照り付ける太陽。島一面に存在する無秩序な花。

 いつぞや来た彼が来ない限り、その島は雲を知らず、太陽と二つの月だけが空に在ることを許された。

 島に住む唯一の住人は、日課の柩を埋める作業をしている。死者の最終目的地の一つであるこの島には、毎日のように数個の柩が流れてくるのだ。

 そんな島の遙か上空。酸素など無に等しい筈の位置に一人の子供がいた。いや、子供のなりをした、地球よりも長い歳月を生きてきた者だ。

 深緑の髪は高い位置で一つに括られ、背中よりもやや上の所まで垂れていた。子供特有の大きな目は赤い。その赤は、人間ならば見えないであろう、島に立つ人を見つめている。

 口は弧を描き、楽しそうな声で誰にともなく呟いた。

「ふふふ。アスファル見っけ」

 その深緑の髪を持つ者は、背景と同化するように消えていった。