終章



 三日ぶりのアスファルの家が、とても心地よい。僕はあまり外に出ないけど、開け放たれた窓から見える花が、一枚の絵画のようで好きだった。

 ハーブティーを淹れて、クッキーを皿に盛る。

 アスファルは、たまった柩を埋めに行った。

 僕は、死者の入った柩が日常にあることに慣れてしまっていた。慣れてしまったこと自体に少し恐怖を感じる。

 『死』が日常化してしまうことに。

「はぁ…」

 思わず出たため息。でもニュースや新聞などで見る他者の死と変わらないのなら、そんなものだろう。

 クッキーをかじりながら、そう結論付けた。

 窓から見える花畑とアスファルを目に留め、この日常を永遠願った。

 彼等には決して、理解し得ない望みだろう。





「逃げられたみたいだね、リシウェント」

「ああ、失敗してしまったわ。もう少し持つと思っとったんだがな」

 アスファルが消してしまった書類を書き直しているところに、レウロが現れた。レウロは薄く笑みを浮かべ、今は被っていないリシウェントのシルクハットを手に取った。

「だから無理だと言ったのに」

「ならば何故行った?」

 レウロはリシウェントを見た。つり上がった鋭い目は問いつめるものではなく、純粋に疑問を問うているにすぎなかった。

 間をおいて、レウロはポツリと話し出した。

「…会いたかったんだよ。ずっと、意識的に忘れてたのに。リシウェントがアスファルの名前を出すから。どうしても、会いたくなった。

「ただの兄代わりであったと思っておったが、奴は紛れもなくお前の兄であったようだ」

 それにしても、とリシウェントはアスファルの勧誘失敗を惜しんだ。

「だから無理だってば」

「まぁそうだったわけだが、何故お前はハヌドゥノアスに会いもせずそれが判った?」

「…」

 レウロは沈黙を続けた。シルクハットを持ったまま、眉を下げて何か考え込んでいる様にも見える。

 リシウェントは、レウロの沈黙の間にも書類の山を少しずつ減らしていた。

 小一時間経ったとき、レウロは漸く言葉を発した。

「人間を造ろうとしていたとき、僕はただ単純に感動して喜んだ。僕達のような、知性と言葉を持つ生き物ができるって。でも、アスファルには目的があったんだよ」

「目的…?」

「アスファルは彼の夢を見た。それは悪魔で可能性で、それには果てしない刻が必要だったけど、アスファルが欲しくてたまらないものだった。だから造ることにしたんだよ。僕はそれに気付いたから、人間を造るのを反対した。そしたらアスファル、『ならば星へ帰ればいい。私が一人でやる』って」

 リシウェントは相づちすら忘れて、レウロの話を聞いていた。リシウェントもまた、気付いたのかも知れない。

「アスファルは、二千百年前の世界崩壊も起こると知っていた。それはヒトを造った自分の責任だとして、国に縛られることも、人に認知されることからも逃れて。地球に独りの居場所を造り上げたんだ」

 レウロも目からは、ただ一滴がこぼれ落ちた。









シリアスまっしぐら。
いったいどう終るのか全く見当がつきません。
行き当たりばったりで書く人なのです。プロット?作れる人はすごい。
そういえば...これほど登場キャラクターの平均年齢が高い話も珍しい。
へびも分かっておりません。
確か地球誕生が45億年くらい前だったような。
...はは。