第三章
「エルヴィス。少し話をしようか」
「え、あ、うん」
レウロは言って、先程までアスファルが座っていた席に着いた。僕はいつも通り、その向かいの席に。
「さて。君は知識と知恵に愛された、異端なる探究者だ。僕が答えると思うことを聞いてみて」
それは、全ては話さないということの前置き。踏み込みすぎるなという注意と警告。
「じゃあレウロとアスファルが、初めて会ったときはどんな感じだった?」
「そうだね。アスファルのことは会う前から知ってはいたけどね。有名だったから」
「有名?」
「それは内緒」
そう言って笑ったレウロは、アスファルと話していたときのような顔ではなく、静かな作り笑いだった。
「まぁとにかく知っていたわけさ。それでたまたまアスファルを見つけて。引き留めたんだ。昔と変わらない、あの三つ編みの髪を引っ張って」
「それは、痛いね。アスファルの方も、インパクト強かったんじゃない?」
「もちろん。それからアスファルとはよく会うようになったのさ。当初は僕も敬語で、タメで良いって言われてから、百年ばかり掛かったよ」
苦笑しながら、突然レウロの手に収まったカップをすする。
「ははは、僕は一瞬でタメになった」
僕にも勧めてくれて、紅茶の入ったカップを受け取る。
美味しかった。
「じゃあ次の質問。さっきの本は、この世界の創造の記録が書かれているんだよね?詳しく教えてくれない?」
「ふふふ。嫌」
読んで上げようかって言っていたのに。ひょっとして。
「さっきのは、アスファルへの嫌がらせ?」
「うん。ごめんね、言う気はなかったんだ」
なぜか笑ったその笑顔が、少し寂しそうに見えた。
「次は…そうだなぁ。あ、レウロも世界中旅しているの?」
「ん?」
「あれ、違った?アスファルが、創造主は自分と同じ様なことしてるか、国に帰ったか、旅してるって聞いたんだけど…まぁ、レウロは創造主と言って良いか微妙らしいけどね?」
笑って言うと、相手も笑った。理由が同じとは、限らなかったけど。
「あっははっ、僕は国に帰った創造主。よく遊びに来るけどね」
「へーそうなんだ」
「まぁね」
「あ、ちょっと待ってて。僕クッキー持ってきてたんだ。アスファルには悪いけど食べちゃおう」
僕はキッチンへと取りに行く。
姿が見えなくなると、レウロも立ち上がり、窓に手を添える。
花畑の中にいる者に目を留め呟いた。
「ふふふ、愚かなアスファル」
「おまたせ、どうぞ」
「ありがとう」
僕がクッキーを持って戻ってきたとき、レウロは変わらずカップをすすっていた。
「じゃあ次の質問」
「あ。次で最後ね」
いきなりだな。
「そう?残念だなぁ。それじゃぁ」
僕は笑ってレウロを見つめる。
「アスファルがさっき言っていた「今更」って、何?」
一瞬表情を消した後、笑って答える。
「内緒」