第五章
「あれ?」
開かない。ポスターにあるはずのない鍵穴に鍵をさして回す。いつもはそれだけでドアは開く。
しかし、今現在開かないのはどういうことか。
もう一度鍵を抜き、入れ、回す。
「開かない…」
おかしい。あちらから戻ってきてドアを閉めると、鍵は自動的に掛かる。そして今鍵を開けて入ろうとしても、扉は開かない。
鍵穴から抜かず、そのまま一度回してみる。これならば、鍵は掛かった状態だ。
ドアノブを回す。
「…開いた」
ため息を吐き、茶葉やら茶菓子やらが入った袋を持ってその先に繋がる部屋へと入っていった。
「あ、レウロ。本当にいたんだね」
「エルヴィス、それってどういう意味?」
苦笑しながら、レウロは読んでいた本を閉じる。それは僕が先日持ってきた、世界創造の記録だ。内容は僕にとって、読みたくてたまらないものだが、文字が地球のものではないので到底読むことはできない。読める者が二人もいるのに、教えてはくれないのだ。
「いや、そんな感じがしたから」
「僕等はヒトのそれとは比べられない時を生きる。一日も二日も変わりはしないよ」
「まぁ、言われてみればそうだろうね」
「…アスファルなら今出てるけど」
僕が周りを伺っていたのはバレバレだったようだ。外には姿を見受けられたかったので、中にいるだろうと思ったが姿が認められない。
「出てるって…この島を離れているの?」
僕は目を見開いてレウロを見る。
信じられない。アスファルが島を離れるなんて。
「すぐ戻るって言ってたけど?」
「レウロ達と僕の時間の感覚は激しくずれている」
「月が出るまでにはって。もっと早いかもしれないよ」
「何処に行ったの?」
「さーあ?」
とても楽しそうにレウロは言った。これはきっと知っている。しかし聞き出すことは不可能だ。アスファルといいレウロといい、創造主は皆こうなのだろうか。
「まぁいいや。今日は様子見に来ただけだし、帰るよ。レウロは明日もいるんでしょ?二日も三日も変わらないんだもんね?」
「あっはは、じゃあねエルヴィス。お気をつけて」
「じゃあね、もうポスターに悪戯しないでよ」
もうしないよと相槌を打ち、レウロは手を振って僕を見送った。