第七章



「…アスファル、レウロは?」

「ん?帰ったんじゃないかな」

「かなって…」

 テストは休日を挟んで四日間行われる。今日はその休日の日。僕は朝からアスファルの元を訪れていた。

 しかし、昨日までいたいたレウロの姿がない。

「でもレウロ、また明日って…」



『まぁいいや。今日は様子見に来ただけだし、帰るよ。レウロは明日もいるんでしょ?二日も三日も変わらないんだもんね?』

『あっはは、じゃあねエルヴィス。お気をつけて』



 …言ってない。

「いや、何でもない」

「そう?あ、お茶飲むかい?新しいハーブが取れたんだ」

 ティーポットを持ち上げて僕に見せる。

 いつも通り。変わらない笑顔。変わらない動作。昨日より密度の低い空間。

「ねぇアスファル。どうしてレウロは帰ったの?」

「さぁ。私にもよく分からなくてね。話をしていたら突然消えてしまって」

 苦笑するアスファル。

 いつもと変わらないから疑問に思う。とても完璧だから、違和感があるように思える。

「アスファル、そのお茶ちょうだい」

「はい、どうぞ」

 でも僕は、彼に話させる術を知らない。



「…はぁ」

 ため息。アスファルがため息を吐いた後立ち上がる。柩が来たのだろうか。いや、それならそれでため息なんか吐かない。

 ドアを開けるアスファル。まさかまた来たのか?レウロだろうか。それとも別の創造主。

「君まで何なんだい?リシウェント」

「いや何。昨夜レウロが帰ってきてな。少し暴れたがまぁ大丈夫だろう」

 声だけが聞こえ姿が見えない。しかしアスファルは見据えているので、きっといるのだろう。

「お前もお前で、あれをあまり虐めてやるな。奴はまだ見てくれ通りの子供のままだ」

「はは、あれだけ歳をとっていて、子供のままか」

「お前のせいで心が成長しきっとらん」

 笑みが消えるアスファル。その時宙に線が入った。それは切れ目のようで、手が二つ押し広げるようにして現れた。男が出てくると、その広げられた空間は何事もなかったかのように消えた。

 リシウェントと呼ばれたその黒いスーツに黒いシルクハットという出で立ちの男。出てきたときの歪んだ笑みは未だ絶やされてはいない。

「そう。それで君は何しに来たの?」

「何って、お前を連れ戻しにだ」

「「は?」」

 僕とアスファルの声がはもる。

 リシウェントは不思議そうな顔をした。

 僕にしたら、それが不思議でたまらない。