神
「遂にですね…」
ベアニスが上りながら言う。
それにつられてか、シルフィードはフェレストに訊いた。
「お前、クロストって見たことあるか?」
「ないな。その様子だとそちらもなさそうだな」
「ああ…」
「だがそれも、すぐに解るさ」
そう言って、最後の一段を上り終えた。
「…どこで御座いましょうか」
見渡しても姿の確認が出来ず、アレンは思わず疑問を口にした。
と、その時。先程見かけたはずの黒豹が奥から現れた。いや、同じ黒豹であると断言は出来ない。しかし、迷うことなくこちらへ向かってトコトコ歩いてくる。
四人の前まで来ると黒豹は止まり、四人の周りを一周すると元来た道へと戻っていく。
「着いてこいって事か…?」
とりあえず歩いてみると、それが正しかったことがすぐに解った。
「…来おったな」
「お前が…『クロスト・ジャミラ・アトランテ』?」
玉座に座っていたのは、赤く豊かな髪を一つに括った、黒い目の、子供だった。
「失礼ですが、見た所御歳十四、五歳程とお見受けいたします。…真にヴィグリード国王であらせられますか」
フェレストが尋ねると、玉座に座った赤髪の少年はニヤリと笑って答えた。
「それは真だ。わらわがクロスト・ジャミラ・アトランテ。ヴィグリードを統治しておる」
「まだガキじゃねぇか。それに、仮にも一国を治める者が自分を「妾」なんて呼ぶもんじゃねぇぞ」
ため息混じりにシルフィードが言うと、すり寄る黒豹を撫でていたクロストが視線を険しくした。
「口を慎めよ小童が。わらわ含めヴィグリードが仕えるのはこの玉座に座る王ではない。おんし等が愚かにも忘れてしまった神だ」
「神ぃ〜?」
国が信仰するものをあからさまに、シルフィードのようには言えなかったが、声を上げなかった三人も同じ気持ちだった。
「はっははは、悪ぃな。俺ってば神サマ信じてねぇからさ?」
「神を殺めし冒涜者めが…!」
クロストが声を荒げた。その目は怒りに燃えている。
「おんし等のような者どもがおるから、神は世を去られてしまわれたのだ!」
「な、何言ってんだ…?」
「神は個を持たない精神体であらせられる。その存在を否定しおったら、誰が御方を世につなぎ止めることができようか」
だが、と。フェレストは冷静にそれを否定した。
「神はいない。その証拠もない。ヴィグリードが宗教国家だと聞いたことなどないが、貴殿が法として施行なされたのか?」
「おんしも小賢しいものよ。だがな、わらわはぬし等に神を証明することなど意図も容易い」
言うと、クロストは右手を突きだした。一秒もしない内に、フェレストのすぐ横を何かが通過し髪を揺らした。
「なっ」
「ぐおっ」
フェレストが振り返ると、アレンが駆け寄り助け起こしているところだった。見る限り、外傷はなさそうだ。
「そうか…あの時の風や大地、貴殿お一人でなされていたか」
「げほっ、何だよこの野郎!」
「おんしは一々わらわの気に障るでな。これはの、神が信仰する者に与えたもう力。わらわの場合多少違うが、国民ならばこの程度、使えぬ者はおらんだろうて」
国民全てがあの力を。初めから勝てる筈などなかったのだ。この間は、どれ程手を抜かれていたことか。
フェレストの考えを読んだのか、クロストが答える。
「当たり前だ。ヨーツンヘイムもニブルヘイムも我が国から分離したもの。母国に勝てると思うたか?」
クロストがあっさり話した事実を、四人はまるで知らなかった。
「ちょっと待て、そんな話し聞いたことねぇぞ?」
「だろうて。おんし等二人とも、前王の死に目にあえなんだ。これは王のみが知っておればよいことと、オリンストンとペルキラムは申しておったからな。ぬし等の国でも、歳のあるものは知っておろうて。しかし奴等もしくじったものだ。なぜ神の教えを説かぬままだったのか…」
やれやれとでも言うように頭を振ってクロストは言った
しかし、四人はクロストの言い方に違和感を抱いていた。
「オリストンっていやぁ、確か曾じじぃだったような…」
「自国の創立者くらい憶えておけ。そう離れた祖先でもないだろうに。…ペルキラムは我が国の創立者ですが、まるで知り合いのように話される。おかしな話だ」
それを聞くと、意地の悪い笑みを浮かべて言い放った。
「当たり前だ。奴等二人とも、わらわの部下であったからの」
「三国の話(仮)」が放置中なことにかわりはありません。
この話はフォルダ消失事件の犠牲者で、
印刷していたものをタイプしなおしたものです。
今まで面倒で放っていたのをいい加減どうにかしようとタイプ。
本当はもう少し書いていたのですが、印刷しないまま事件に合いまして。
その事件のせいでかなり書く気を削がれて放置なんてことに。
でも佳境まできているのでいつかは完成させたいなぁ。
というか名前ちゃんとつけなきゃ…!(完成してから名前をつけるタイプ)
でもやっぱり暫くは放置。