二国の対応



 二国はその後、最後通牒とばかりに再度ヴィグリードに書簡を送った。それが認められなければ、自由行動・実力行使をする旨を書き添えて。

 しかし、またもや返書は顔の青くなった遣いと共に城へと届けられた。返事は同じく一文。『貴国に助力する気はない』。



「何を考えてやがる。クロストとかいう野郎」

「お会いになったことはないので御座いますか?」

 たまたまシルフィードの執務室に書類を届けに来ていた官が尋ねた。

「ああ。隣国なら会ったことが会っても不思議じゃねぇ。むしろ会ってないのが不自然なくらいだ」

 シルフィードとフェレストも、幼い頃から何度も会ったこがある。隣国とは位置的には言い難いかも知れないが、近隣諸国としては近すぎるほどだ。

「そういやあの国の噂は良くも悪くも聞かねぇな。崩御の話しも外部に漏れねぇし、即位の式典の話しも聞かねぇ。あの国だけで完結してるのかと思えば、旅人を拒む話しも聞かん」

 椅子に深く座り込み、右手を口元にあてて思考を巡らす。

 シルフィードの口の悪さは国内でも有名なところであるが、それが咎められないのは若さだけが原因ではない。浅はかではなく、以外と思慮深い。何よりその王たらんとする威厳があるからであった。



 ヨーツンヘイム、国王執務室。フェレストは書類に視線を走らせ、「フェレスト・ルイ・バルスヌティス」のサインをしていった。

 ヴィグリードへの二通目の書簡に記したように、ヨーツンヘイムはヴィグリードの侵略の準備に追われていた。

「よろしいのですか?」

 フェレストに紅茶を持ってきていた給仕の子供が尋ねた。

「何がだ」

「ヴィグリードへ侵攻することです。その間にニブルヘイムがヨーツンヘイムに攻めてくるのではないかと考えてしまうのです…」

「その心配は無用だ。ヴィグリードは得体が知れない。それはニブルヘイムにとっても同じだろう。ならばその隙を狙うのではなく、我が国との対戦を見て情報を得たいはずだ。国の大きさから考えても、ヴィグリードの兵は少ない。我が国の兵もこの戦で減るだろうが、少なくなったヴィグリードの兵と合わせて今と変わらぬ位の兵力は保てるだろう」

 それを聞いて子供は顔を綻ばせるが、ふと疑問が浮かんだ。

「兵力が変わらないのなら、意味はないのではないですか?」

「これはある種の賭だ。先程も言っただろう。ヴィグリードは得体が知れない。私はその力が欲しいのだ」

 何か企むようなフェレストの笑みに、安心していいのか不安を抱いていいのか、給仕の子供は分からなくなった。