子供
「アレン、あれをどう思う」
「ヴィグリードで御座いますか。そうですね。何とも申せません。得体が知れないとしか」
国王が冢宰の執務室に自ら赴く、というニブルヘイム以外ではなかなか見られない光景。しかも国王は、アレンの机の真横に座り込み、その顔を伺っている。
「だよなぁ」
「あえて申し上げるのならば、ヴィグリードには我々の持ち得ぬ何らかの力があるのやも知れませんね」
「…それが知りてぇんだよなぁ」
言って黙ると、ふと思案顔になる。
「…子供」
ボソと言ったセリフをアレンは聞き逃さなかった。
「子供?」
「ああ。上から見たら、一人いたんだよ。ヴィグリード兵に守られるようにしてな」
「…妙ですね」
アレンは言って、目を伏せた。
「少し調べてみましょう」
帰城したヨーツンヘイム兵。また国王フェレストも時同じくして帰城していた。
「…お聞きしてもよろしいですか」
玉座に腰を下ろしたフェレストにベアニスは尋ねる。
「何をだ?」
「最後に放たれた矢についてで御座います」
ああ、とニヤリと笑って答える。
「あの力は、誰が起こしているのかと思ってな」
「兵達ではないのですか?」
「それも考えた。だからあの矢を放ったんだ。全ての兵があの力を使えるのなら、中央前列にいた兵達が風やらで防ぐだろう。だがあの兵は倒れた。全ての者が使えるわけではないらしい」
「…では、少数の者だけであれだけの力を」
「さぁな。あの矢で考えられる仮説は二つ。少数、あるいは一人が力を使える。もしくは、兵達が協力して初めて使えるものであるということだ」
気になることもある。あの子供。
「ヴィグリードに探りを入れる」
王の勅令に、ベアニスは恭しくこうべを下げた。
「は。仰せのままに」
淡い緑の光りが、矢を受け損傷した組織、骨、皮膚を癒していく。
「…これで死ぬことはなかろう。しかし、失われた血までが元に戻ったわけではない。暫く養生いたせ」
兵は横たえていた体をゆっくりと起こしながら言う。
「は、い…有り難う御座います…」
「なに、気にいたすことはない。わらわの責だ。むしろ謝らねばならぬのはわらわの方だ。すまぬ」
謝られた兵は狼狽し、傷を受けた事を忘れたように頭と手を必死に振った。
「そんな、滅相も御座いません。そのお力を受けられるなど、この上ない名誉に御座います…国王陛下」
小さな体は立ち上がり、灰色の空を冷たく睨んだ。