掌の上で
近くの宿に部屋を取り、密談するための場所を確保した。その場について数分。誰一人として言葉を紡ぐ者はいなかったが、ぽつりとシルフィードが話し出した。
「正直、お前が俺に書簡だなんてかなり驚いたぜ」
その科白に、フェレストは眉をひそめてシルフィードを見た。
「で?ヴィグリードを堕とすって、うちの何をご所望な訳」
「…貴方は」
「待てベアニス」
シルフィードの言葉に何か言おうとしたベアニスを、フェレストは顔をしかめたまま制止した。
「何だよ。言いたいことがあって俺を呼んだんだろ?遠慮してねぇでさっさと言ったらどうだ?」
フェレストがアレンの顔を伺う。それに訝しそうな顔をするが、そうした途端フェレストは笑い出した。
「はっはっは!はは、そうか、そう云うことか!」
「…何だよ」
突然笑い出したフェレストに、不服な様子でシルフィードは尋ねる。
笑っていたフェレストは、声を上げることを止め自らを含めたこの場にいる者を嗤って言った。
「どうやら私達は、まんまとはめられたようだな」
「……まさか」
声を上げたのはシルフィードで、それにつられるようにベアニスも悟った。
「…どういうことで御座いますか」
一人、手札の少なかったアレンだけが解っておらず、説明を求めた。
それに答えたのはシルフィードで、彼にしては珍しく焦ったような憎らしげな笑みを浮かべていた。
「つまりだ」
何やら階下が騒がしい。二階に進んでくるいくつかの足音も聞こえる。それが、この部屋の前でピタリと止んだ。
「国王サマのお呼びって訳」
言い終わると部屋のドアが静かに開かれ、三人の軍服を着た男が入って来、跪いて言う。
「国王陛下がお待ちで御座います。どうかご同行下さいませ」
ニブルヘイムへと送られた書簡。それと同様のものが、ヨーツンヘイムにも送られていた。
それは、ヴィグリード国王、クロスト・ジャミラ・アトランテが密かに送らせたものであった。