白き神殿



 揺れる馬車の中。保たれる沈黙。響くのは地を駆る馬の蹄と車輪の音だけ。

 シルフィード、フェレスト、アレン、ベアニスの四人は、二王を迎えに来た兵に従い馬車へ乗った。向かうのはヴィグリードの中心にそびえ立つ白い神殿じみた城。

 二王を呼んで、クロストは何をしたいのか。殺そうと考えているのなら、とっくにそれは出来ただろう。尚御前に引っぱり出してまで何をしていたかなど検討もつかなかった。

 小一時間馬車を走らせると、漸く城に着いたようだった。門前で一度止まると、すぐに動き出した。
 長いシンメトリーな庭を見ていると、随分と緑豊かなように伺える。シンメトリーを保ちつつも、明らかに人の手を加えられたような形跡はない。

 あり得ない。

 だが、そうとしか言えないのだ。

 門を過ぎた後の長い庭が漸く終わりを告げ、城内へと案内されることになった。

「こちらで御座います」

 ここまで二人の王と二人の臣下を連れてきた兵が歩き出した。四人の後ろには、二人の兵が付いてくる。

 白く太い柱がここそこと並べられ、上階を支えている。白を基調としているようだが、どこか人工らしさを感じさせないものだった。床もやはり白く、それは大理石のようだ。そのせいで、コツコツ、という靴の音が嫌に響くような気がした。

 奥へ奥へと進むにつれ、元々少なかった人間を見かけなくなる。王というのはそう云うものではないことを知っている四人は、疑問を抱かせざるを得なかった。

 奥へ、奥へ、奥へ。

 最早誰も見かけない。調度品すら置いてはいない。生活感すらもない四角い箱の連結。一体いつまで歩かせるのか。

 奥へ、奥へ、奥へ。

 ふと、前を歩いていた兵が止まった。

「おい、いつまで歩かせるんだよ」

 シルフィードがうんざりした顔で尋ねた。
 それに兵は、静かに苦笑して答えた。

「まだまだ、で御座いますよ」

 そう言うと、一部屋が終わり、扉を開けた。

 だが、先程までと同じではなく階段が現れた。
 草木に覆われた、白い階が。

「何だ…これは」

 フェレストは部屋を見渡し、一点でそれを止めた。白い階段も大理石ではあるが、そこから根を生やして植物達は生えていた。

 石畳を割って生える雑草のようではなく、大理石をまるで土としてそれに根を張っているのだ。

「こちらで御座います」

 兵は案内を続けるようだ。四人はそれに続きどこまであるかも見えない階段を上り始めた。

 後ろに付いてきていた兵は、この部屋に立ち入ることをしなかった。

 登り始めて半刻、やや広めの踊り場に出たとき。上からトコトコと下りてくる黒豹が視界へ入った。

「!」

「大丈夫で御座いますよ。貴方様方は客人に御座いますから、彼女が襲ってくることはありません。しかし、こちらから手を出せばそれは覆りますのでくれぐれも手出しなさいませぬ事をお薦めいたします」

 その後も多くの動物たちがこの部屋には在った。草食動物も肉食動物も関係はなく、しかしどちらも食べる側にも食べられる側にもなることはなかった。

 ふと、兵が声を発した。

「着きました。どうぞお上がり下さいませ」

 言うと兵は脇に避け、跪いた。

 見上げると、今いる踊り場から後一階分ほど登れば着くようであった。



「我が国王がお待ちで御座います」