Ruu様が配布なされているお題、
「使いづらかったり長かったり変なお題」
をお借りしました。

配布元はこちら


 □ くしゃみのしかたって性格でるよね

 僕の名前はT。もちろんこれは本名ではなくて、悪魔で僕を指す記号に過ぎない。

 僕の向かえにいるのはS。こちらも僕同様、決して戸籍に登録されている名前ではない。ただの頭文字だ。

 何故名前を名乗らないのか?それは僕のプライバシーを守るためだ。ならば語るなとはお言いなさんな。僕だって愚痴くらいこぼしたい。

 何の愚痴かって?それは僕の向かえでくしゃみをしているこの男について。そう、Sだ。

 僕に観察されているだなんて気付いていない、否、気付いていたとしても気にも掛けないSは、控え目にくしゃみをしている。実に整っているその眉が寄せられ、忌々しげに歪む顔すら格好いいとクラスの女子は喜んでいるようだ。それを横目で見つつ、僕は箸を口へ運ぶ。チラと視線をSの方へと向ければ、彼の目は潤んでいた。

「………」

 僕は箸を銜えたまま、気持ち悪い物を見てしまった嫌悪感に呵まれた。とりあえず見なかったことにして、卵焼きを咀嚼する。

「憎らしい。実に憎らしい」

 そう、本当に憎らしげに言って制服のポケットからティッシュを取り出す。

「ああ怨めしい、あの白樺めが。僕の平穏をどうして奪おうとするのか。何故僕がこんな目にあわなくてはいけないのか………へっくしゅ!」

 僕は返事をしない。そもそもSは僕に愚痴っているだけで、なにか問われているわけでもない。僕ができることなど、大事な弁当に唾が飛ばないようSから遠ざける事くらいだ。

「まったく。どうして突然花粉症になど…おかげでティッシュが手放せない」

 へっくしゅ!と、もう一度くしゃみをして鼻をかむ。それを全く無視していた僕に、Sは突然険しい視線を向ける。

「ずるいぞ」

「…はぁ?」

 細められた目は真っ直ぐとこちらを射抜くように睨め付ける。

「お前、アレルギーとかないのか」

「アレルギーねぇ…。…生憎と健康体で」

購買で買った焼きそばパンの袋を開けながら記憶をさらうが検索結果はヒットなし。そんなものなろうと思ってなるものではないし、なりたいとは思わない僕としてはそんな目で見られてもいい迷惑だ。

「お前も花粉症になればいいんだ…へっくしゅ!」

 本人の性格と外見が比例していないのに対し、くしゃみの仕方は割と合っているな、と思う。しかし、つまりは性格とそのくしゃみは合っていないあたり、やはり性格の方に問題があると思わざるを得ない。なに、普通そこまで考えないって?そんなことはない。

 ポケットティッシュを使い切り、予備を取り出す様を横目で見つつ窓の外へと視線をやる。校門を出てからの坂道は、白樺並木だ。いつも我が道を行くS。だからたまには困れば良いんだとほくそ笑みながら、僕は杏仁豆腐を口へと運ぶ。

「…お前、まだ食べるのか」

「は?」


 □ 歳の差って、世界中を敵にまわしても良いとすら思った愛を一瞬で砕くよね…

 僕の名前はS。もちろんこれは本名ではなくて、悪魔で僕を指す記号に過ぎない。

 僕の向かえにいるのはT。こちらも僕同様、決して戸籍に登録されている名前ではない。ただの頭文字だ。

 何故名前を名乗らないのか?それは僕のプライバシーを守るためだ。ならば語るなとはお言いなさんな。僕だって愚痴くらいこぼしたい。

 何の愚痴かって?それは僕の向かえでくしゃみをしているこの男について。そう、Tだ。

 僕に観察されているだなんて気付いていない、否、気付いていたとしても気にも掛けないTは、某ファースドフード店の2階窓際から外を見下ろしていた。

 僕も視線をそちらへとやると、どやら善良な男子高校生が歩道橋を渉る老婆の荷物を持ってあげているようだった。そんな人間もこの地球上に存在するのかと驚きながら様子を見守っていた。

「『これがあれば、俺たちはやっとこの星を脱出することができる…』」

 隣から聞こえてきたTの声に、何がどうしたのかと視線をやれば、Tの視線は相変わらず外の男子高校生と老婆に向けられている。

「『ええ、一緒に逃げましょう…』」

「『ああ、この星にいたら毛根が尽きてしまう』」

 Tの隣にいた大学生らしき人間が吹き出しそうになっているのを堪えている。

 抑揚のない声でTは喋っているが、逆にそれが笑いを誘う。毛根を選んだのは、おそらく男子高校生が坊主頭だからだろう。既に危ない。

「『…なぁ、無事に逃げ切れたら結婚しないか』」

「『え…っ?』」

「『出会って長いんだし、そろそろ年頃だと思わなか』」

 抑揚のないTのアテレコが盛り上がってきた頃には、ファーストフード店の2階の客は皆聞き耳をたてていた。口元を押さえひそひそと、時に吹き出して笑いながら。

 話題の2人はそのころ、階段を下り終え老婆に礼を言われているらしいところだ。

「『…っ嬉しい!でも、私あなたに秘密にしていたことがあるの』」

 男子高校生のお礼を断る手振りに合わせてTは台詞をつける。

「『なんだ?俺は気にしない…』」

「『私78歳なの』」

 その時、男子高校生はお辞儀をした。

 それが「ごめんなさい」をしているように見え我慢しきれずに笑い出す人多数。しかし続きを聞きたいのか必死で押さえ込んでいる。

「『…じゃあな、元気でやれよ』」

「『そんな…あなた一人で毛根を守るつもりなのね…』」

「『許せ』」

 そこでアテレコは終わった。それでも赤の他人の話に聞き耳を立てていたことになるので我慢している。
 外を見やれば、老婆の姿はもうない。
「あ」
 僕がぼそりと漏らしてから5分後。
 男子高校生はこの場へと姿を現した。
 ――爆笑。彼にしたら訳が分からないだろう。狼狽える彼を見て、僕はそちらを見向きもしないTを見る。
 彼に些末ながら同情し、悪びれもせず外を眺めるTにため息をもらした。




 □ 一勝一敗O引き分け

S君について。

 クラスメイトA君の証言
「S?あぁ…そうだな、顔はいいよな。女にもてる顔だよ」

 クラスメイトBさんの証言
「格好いいよね!でもみんな告白とかしないのよ。遠くから見てるだけ」

 クラスメイトC君の証言
「あいつには…近づきたくない」


T君について。

 クラスメイトA君の証言
「T?そうだな…ユーモアのあるやつかな。聞いてて面白くはある」

 クラスメイトBさんの証言
「あんまり特徴の無い顔よね。でも悪くもないわ」

 クラスメイトC君の証言
「あいつにも…近づきたくない」



もう少し突っ込んで聞いてみました。



S君について。

 クラスメイトA君の証言
「でもあいつ変なんだよ。大正貴族みたいな雰囲気で素でオレサマなんだぜ」

 クラスメイトBさんの証言
「口さえ開かなければ文句無いのよねー」

 クラスメイトC君の証言
「あいつと関わると、平穏な生活を送れない」


T君について

 クラスメイトA君の証言 
「あいつ電波ぽいんだよ…笑ってるとこ見たことないし、宇宙人と交信してそう」

 クラスメイトBさんの証言
「T君の話聞いてると、アイデンティティーを見失いそうになるわ」

 クラスメイトC君の証言
「あいつと関わると、平穏な生活を送れない」


結論:ある意味高レベルな50歩100歩。

 


 □ 数十の話題がなんの関連性もなく飛びかう中

「あー鼻が痛い」

「何、腹が減った?」

「ああ、花粉症のせいでな」

「だよね。この時間なら普通腹減るよな」

「まったくだ。白樺をここまで憎むことになるとは夢にも思わなんだ」

「そう、あの白い銀しゃりがたまらないね」

「そういえば、お前ポケットティッシュ持ってないか」

「銀しゃりを今?生憎弁当に入っている米は朝食べたけど」

「そうか、ないか…」

「まぁそう落ち込まないで。帰りに食べに行こう」

「ティッシュをか?」

「は?」


 □ 何も言ってません。何も言ってませんってば!

 俺の名前はC。イニシャルでも何でもない、俺を表す記号だ。なぜかって?俺はまだ、人生を捨てる気はないからだ。頼む、それ以上は聞かないでくれ。

 俺は極々平和的に、平々凡々と日々を送りたいと思っている善良な小市民だ。まだ高校生という身であるが、何れはという人生設計を持っている。大学を卒業し、会社へ就職。職場で恋人を見付け3年の交際の末結婚をする。嫁さんは寿退社で子供は男児2人女児1人。娘が嫁ぐのを見てから定年を向かえ、嫁さんと旅行でもしながら老後を送る。

 そんなありふれた幸せを望んで何が悪い?ああそうだ何も悪い事なんてない。俺は幸せになりたいんだ!

 だが俺の前には、それを叶えるためには大きな壁、基、樹海が立ちはだかる。そう、SとTだ。

 俺は、実に不満ながらあの二人と幼なじみというポジションに着いている。俺をここまで育ててくれた両親であるが、あの二人の家の隣にマイホームを購入したした事だけは恨んでいる。すまない父よ母よ。不可抗力であることはわかっているのだ。だが、だが!

 奴等は俺の夢を叶えるに当たって大きな障害物でしかないのだ。

 まずSだ。うわっ、来たぞ、Sだ。何だこいつ、俺が考察しているのを知って居るかのような登場ぶりだな。

「和英貸して」

「…悪いが、お前と同じクラスである俺も使うので無理だ」

「そう言うな。僕はお前を信じている」

「は?あ、ちょっと待て!持ってくな!」

 なんなんだこの傍若無人ぶりは!しかしこれが初めてでない俺は予備を持っている。なぜ俺がこんな苦労をしなくてはならないのか皆目見当も付かない。

 次にTだ。あいつの席は絶対窓際だ。席替えのくじを何度引いても窓際にしかならない。そうして今も空を見上げている。

「え?なに。…あーはいはい。お宅も苦労してるんですね。地球?地球はともかく日本は割合平和なもんですよ」

「……」

「そっちはどうです。あ、ついにやっちゃったんですか。大丈夫です?さすがに…ああ、それなら安心ですね」

 何が安心なんだ!こいつの独り言?は聞いてて恐ろしい。この現象を我等パンピーは受信中と呼ぶが、受信中は誰もTに近寄らない。何故かは明白だ。

 分かって頂けるだろうか、この俺の心労が。その内胃に穴が空くのではないかと思い胃は大切にしているが…ああ早く卒業したい。高校入学の際、やっとこの悪魔どもから離れられると思ったのに同じ高校で俺は枕を濡らしたものだ。大学こそ、大学こそ!事前に奴等に確認を取り進学先を選ぶことを決意している。

「くそっ…なんで幼なじみなのだ…!」

「え?なにC。なんか言った?」

「え、いや、その、なんでもな」

「幼なじみって僕等のことだよね。なに?」

「何も言ってません。何も言ってませんってば!」


 □ これを俺にどうしろと?

 SはTに一輪の薔薇を差し出した。

 TはSからそれを受け取ると、Sの頭に刺してみた。

「痛いだろう。なにをする」

「いや、いらなかったもので」

「そう言うな。僕だっていらないんだ」

「結構です。Cにでもあげれば」

「あれには似合わないだろう」

「僕にも似合いませんけど。Sが一番似合うんじゃない?」

「だがしかし、僕は花を愛でる趣味はないのだ」

「たまには良いんじゃないの。そもそもそれどうしたの」

「今朝行きずりの女に押しつけられて」

「ああ、君の本性知らない他校生か」

「失礼な。まぁ他校生だったがな」

「貰ったのはSなんだから、自分でどうにかしなよ」

「成る程、そうしよう」

「って、僕にくれるんですかやっぱり」

「お前にやることで僕は薔薇の花をどうにかした」

 そう言うと、Sはどこかに行ってしまう。Sの席はTの前なので、1時間目からさぼる気かも知れない。

 Tは押しつけられた薔薇を見て、ボソリと呟く。

「星の王子さま、か…」

 窓を開けて空へ薔薇を掲げる。

「ねぇ、いる?」


 □ やっているうちに楽しくなったのだろう

「なぁ、暇じゃぁないか」

「僕はいつでも暇じゃない」

「そうは言っても僕は暇だ」

「え、なにそれだから何」

「遊ぼう」

「………ぉぇ」

「その反応は何だ」

「君のその行動に対する正しい反応」

「棒読みでか。まぁいい、ここにトランプがある」

「Sがそんなもの携帯しているなんて僕はとても驚きました」

「そんなわけないだろう。そこに置いてあった」

「さっき誰かがトランプ探してたよ」

「?それがどうかしたのか」

「忘れて良いよ」

「そうか。ではばば抜きをしよう」

「二人でばば抜き。配り終わった時点で大夫カードが減るね」

「気にすることはない。ラストの運と心理戦がこのゲームの醍醐味だ」

「僕等でやって心理戦が通用するとは思えないから運で決まるんだね」

「そうとも限らないさ」

「そう?とにかくやれば分かるか」


10分後


「おい、まだか」

「そう急かすものじゃありませんよ旦那」

「2枚しかないんだ。2分の1でお前の勝ちでお前の負け。さっさと引いてしまえ」

「よく考えてご覧よS。確かにここには2枚のカードがある。たったの2枚。されど2枚だ。例えばこの勝敗に火星人のjfへいhう゛ぁい君の命がかかっているかも知れない。ならば、僕には失敗は許されないわけだ」

「ジェフェ…?」

「jfへいhう゛ぁい君。彼はとても良い生命体だ。今後とも仲良くしたい。そんな彼を僕は見殺しになどできない」

「知るか。例えその火星人の命がかかっていたとて僕には関係ない」

「…仕方ない。では、こっちの…いやまて、やっぱり左、いや右か?しかし左…」

「わかった。僕の負けで良い」


 □ 人のイヤがる事をしたくなる時ってあるよね

「君は本当に素晴らしいね」

「何を言う。お前の方こそ素晴らしい」

 クラスメイトは鳥肌になった皮膚を抱えるように押さえ、嵐が去るのを待ち望んだ。

 誰かが言う。

「ここはどこだ…?北極か…」

 まるで本当にそこにいて、彼は凍死してしまったかのようにばたりと倒れた。それとは別に、誰かが頭を抑えて激しくかぶりを振る。

「もう嫌ぁ…!私がなにをしたの、一体何をしたって言うのよぉ…っ」

 泣き崩れる女。徐々に、だが確実に。この部屋はなにかによって密度が高まっている。息苦しい。いや、そんなレベルではない。迫り来る恐怖。まるでパニックルームに閉じこめられたように。

「君は本当に綺麗な顔をしているね。神が与えたもうた理想の美だ」

「お前は驚くような知識を持っている。この世あらざる者と通じる平民とは違う力さ」

「そんな、僕はただちょっと受信できるだけだよ」

「僕だって、こんな顔ごろごろしているさ」

「ははは」

「ははは」

「「はははははははは」」

 誰か助けて…!!その場にいる、彼等を除いた全ての者が縋る者がないと知りつつも願った。

 だが、一人の若者が立ち上がった。

 勇者よ…!

 民(クラスメイト)の願いを叶えるべく立ち上がったのは、そう、Cだった。

「おい」

「やぁ、C。どうかしたのかい、そんな険しい顔をして」

「ああ、C。何をそんなに恐い顔をしている」

 勇者は果敢にも、二人の魔王の晩餐に乗り込んだ。

「暇つぶしは被害を出さずにしろと前にも言っただろう!」

「だってC、人にはどうしようもなく」

「人の嫌がる事をしたくなる時があるものだ」

「ふ、さけんじゃ、ねぇーーー!!!!」

 叫んだCに、二人は小さく「やべ」と呟いた。逃げようとした魔王をとっつかまえて、勇者はがみがみと説教を始めた。

「…………」

 クラスメイトは、その後Cを見るたび手を合わせて拝むようになったらしい。


 □ だから洗濯機には近づくなって言ったのに

「おじゃまします」

「いらっしゃい」

 SはTの家を訪れていた。何があるわけでもないのだが、何かすることもないので遊びに来ただけである。この二人というだけで違和感を覚えるが、よくあることなので気にしないで欲しい。

「どうする、トランプでもする?」

「いや、お前とトランプをするのは金輪際止めることにしたんだ」

「なんと」

「それは驚いているのか?」

「いや別に」

「じゃあまずバナナジュースくれ」

「そんなもの我が家には常備しておりません」

「なんと」

「それは悲しんでいるのか?」

「いや別に」

 じゃあ珈琲で良いかいと、Tはキッチンへ消えた。戻ってきたときには、皿に饅頭を山盛りにして運んできた。

「どうぞ。砂糖は君の好みに合わせて10杯ほど入れておいたよ」

「地味なようで結構嫌な嫌がらせだな」

「ありがとう」

「しかし僕はこっちの珈琲を誤って飲んでしまうことにするよ」

「ああ、僕の珈琲」

「従って、この砂糖10杯入りの珈琲はお前が飲みたまえ」

「そうする」

 まんじゅうを次から次へと胃袋へ収めているTと、1つをゆっくり食べているS。と、Sが珈琲カップを倒してしまう」

「ああ君、どうしてくれるんだ。カーペットがシミになるじゃないか」

「すまんな。だがどう見てもフローリングだろう」

「おかしいな。30秒前までは確かにカーペットだったのに」

「まぁいい、替えの服と洗濯機を借りるぞ」

「駄目だよ。洗濯機には…」

「なにかあるのか?」

「ある。だから近付くな。君の家はすぐ近くなんだから、いったん帰ればいいよ」

「いやしかし、そう言われると気になるのが人の性ではなかろうか」

「そうかも知れないけど土星人を見習って慎重深くだね」

「生憎知り合いはいないんだ」

 嘗て知ったる家なので、Tの気のない制止の声を無視してSは洗濯機の前まで辿り着いた。

 パカ、と蓋を開けると、数秒後何事もなかったかのようにSはそれを閉じた。

「やはり家に帰ることにする」

「だから言ったのに」


 □ ぐぅ、とでも言ってみろ

「ぐぅ」

「え、なに?」

「別に」


  最後は思いつかなくて…!
  というか、最初無気力の変わった2人の学生BLものを書こうとしていたはずなのに。
  ただの変なだけの人達になっちゃいました。
  なぜ…