はっきり言おう。断言しよう。
私は彼が、大嫌いである。
滅多に人を嫌いだと思わない私であるが、彼だけはいけ好かない。
なぜって、彼だからだ。
私と彼
私が彼と初めて会ったのは、第一学部の最終学年の時。レポートを仕上げようと資料館へと行ったとき。
考査が近いことが災いして、資料館は大いに込み合っていた。
私が席について暫くすると、白い髪を引っ詰めた彼はやってきた。たまたま空いていた私の隣へと腰を下ろすと、彼も同じくレポートを取り出した。それを見て、彼が同学年であることを知った。
レポートの資料を取りに行こうと席を立つと、彼も同時に立ち上がった。彼を見ると、何やら気まずそうなので偶然だろう。そのまま私は資料を探しに行った。
目当ての資料が見つかり手を伸ばすと、反対側からやってきた彼も同時に手を伸ばした。この本は多用されるので、何冊かあるため特に問題はないが。
またか…。
そうは思ったがさして気にもせず席に着いた。しかし、それも同時。書き連ねた文字を力を使って消すのも同時、新にレポート用の薄い筆記板を出すのも同時、ため息を吐くのも同時、仕上げて席を立つのも同時。
いい加減腹も立つ。彼も同じらしく、イライラした面持ちで資料館を出た。レポートを提出しに行くのまで同時だったが、それきり会うことはなかった。
…数ヶ月は。
第一次最終学部の認定試験に受かると、第二次学部へ進学する。機械的に分けられたクラスで、彼は。
私の隣だった。
一年生の時は、互い見なかったことにして無視を決め込んだ。
が。二年生の半ば、遂に彼がキレた。
「いい加減にしろ!!」
「…何が?」
「いつも同時に同じ事しやがって、なめてんのか!?」
言い分は判るが、腹が立っているのは私も同じだ。それを、なんだ。このまま、言われっぱなしになってやる気は更々ない。
クラスの皆は遠巻きに、しかし好奇の目を向けてこちらを見ている。
私と彼の行動の一致は、既にクラスでは知れ渡っていた。何度か訊かれたが、互いに全くの偶然だと訂正した。
あまり信じられていなかったが、これで本当であったと証明された。
「別に、意図してやっている訳ではないし、仕方ないじゃない?それを理不尽にも言い立て自らの言ばかりが正しいと、まるでそんな言い方をするなんて愚の骨頂だね」
私の科白に、クラスが一気に静まった。私は穏和な方で通っていたから、それなりに驚いたようだ。
「同時に同じ事を偶然し続けて、ストレスを感じているのは君だけだとでも思っていたの?あのまま互いに無視を決め込んでいればいいものを。まるで我慢の効かない駄犬みたいな愚行を冒すなんて」
「そうは言ってないさ。だが俺の行動を愚行だと言うなら、お前のそれこそ愚行じゃないのか?今まで分厚い面の皮で隠してた本性をこんな事で出すなんて、思っても見なかったぞ」
「分厚い面の皮?普段の私が通常だよ。そしてこれが君に対する通常さ。吼えるだけの馬鹿な犬に、優しさなんて必要ないでしょう。それを見下すのは普通だと、私は思っているけれど?」
見下すという言葉に反応したようだ。
「お前…!」
「ああ、気にさわった?ごめんね」
皮肉って嗤ってやれば、激昂するかと思っていた彼は意外にも冷静になった。
「…お前、何気なく話題逸らしたな。さしずめ分厚い面の皮が気に入らなかったか。皆に知られちゃまずかったのか?その歳で、もう周りに曝せない奇人じみた思考があるんですーって」
「勝手に妄想してそれで私を決めないでくれる?」
「無意識下の話題修正か。お前、相当深そうだな。お前がどこで野垂れ死のうが関係ないが、俺に迷惑だけはかけるなよ」
「私が君に借りを作るようなことがあるとは思えないけれどね」
「「………………」」
―――――――――― 暗転。
…とまぁ、私と彼は大変折り合いがよろしくない。
なのに、学部で共同作業があると決まって彼と組まされるのだからたまったものではない。
彼と口論してから、大っぴらに言い争うようになった。言い争いで済めばいいが、無意識に溢れる力での衝突も間々あった。なまじ私も彼も平均より幾分も強い力を保持していたので、止めるのは決まって必死になった教師だった。
余談ではあるが、当然というか、クラスでの私の見方が変わった。「穏和な人」から「決して怒らせてはいけない人」になった、らしい。
彼の名前…?
では、一度だけ。彼も私同様長ったらしい名前をしている。しかも発音しづらいと専らの評判だ。同意する。
ミスラシィニス・クロー・クィルカンド。
周りからはミースなどと呼ばれていたが、私はファミリーネームを略してクードと呼んでいた。
…意図して、なるべく呼ばないようにしているが。
柩シリーズは、出ても居ないのにすでに出来ているキャラが他にも何人かいます。
出演予定は未定ですが。
ミースもその一人でした。ただ漠然と、アスファルと仲の悪い奴を作ろうとは思ってましたけど。
ちなみに彼も創造主です。