序章
夢だ。同じ夢。
最近、僕は同じ夢ばかりを見る。海に沈んだピサの斜塔。それは、2100年前の世界崩壊の時陸地ごと海へと沈んだものだったはずだ。
僕の目に映るそれは、海に沈んだ今で尚傾いていた。
目に映る、と言っても、僕はまるでレンズ越しにそれらを見ているように自分の体は確認できない。
綺麗な海だ。これで何度目かはわからないけれど、何度見てもこの海は綺麗だと思う。
この世界の海は、世界崩壊前より汚れてしまった。多く沈んだ大陸。海へ消えた陸地は土木や機械類、石油などをばらまいた。それは長い時間を掛けて、人々の手により取り除かれ、自然と沈殿していった。
美しさを取り戻していった母なる海ではあるが、以前と全く同じにはなり得ない。
だが、ここはどうだろう。
青と表現するにはあまりにも美しすぎた。碧、きっとその色が一番似合う。その色をしたこの海は、地上で芽吹くはずの草花、木までもが海底でその葉を茂らせ波に泳がせている。また、海中に芽吹く植物達とも同居していた。
魚は悠々と泳ぎ、その色は薄い茶色だった。
…………?
遠目でしかその魚は確認できないが、珍しいもののようだ。おそらく15センチほどの大きさで、胴体は前に進むために左右に振られる筈であるが、その動作が一切無い。尾ひれが多少揺れているのを確認できる程度だ。
ふ、と画面が変わる。そこは海の中ではなく、建物の中だ。その場にあった窓を見てみれば外は海。ここは、どうやらピサの斜塔の内部のようだ。窓にはガラスなんて見あたらないのに、海水は内に流れ込んでくることはない。
視点は見下ろすようで、高い位置からここを映していることがわかった。前へ前へと進むと、大きな天蓋付きのベッド。ベッドと称するにはあまりに大きい気がしないでもない。シングルベッドを10個ほど集めたような広さの、円形をした寝台。多くの柔らかそうなクッションが所狭しと転がっており、そこには一人の人物が横になっていた。
赤紫色の髪をした、小柄な人物。体を丸めてクッションに抱きつき厚い布団を被っている。
もそ、とその人物が動いたかと思うと、上体を起こした。その人物は眠たげな目をこちらへ向けた。僕の姿はないはずなのに、まるでレンズ越しに目が合った。
そして。
『 』
なんて言ったかは、わからない。
ガバッ
「また、か…」
エルヴィスは暗い部屋の中目を覚ました。別に疲労感を感じるわけでも、寝苦しいわけでもない。
だがしかし、いつもこの夢はここで終わる。続きは見たことがない。
ふぅ、と一つため息をこぼし、ひとりごちる。
「明日、アスファルに相談してみようかな…」
これが何を示しているのか、2度目にこの夢を見たときから気になって仕方がなかった。回数を重ねれば何かわかるかとも思ったが、一向にその気配はない。
知りたい。
その欲求は、エルヴィスには止められない。止める気もない。
寝直そうかとも思ったが、どうにも目が冴えてしまったエルヴィスは、早々に着替え身支度を整えた。
その姿は、台所へと消えていった。
「賄賂でも作ろう」
久しぶりの柩シリーズ。
「永き〜」が書きあがったのがどうやら去年の9月末。
それから約半年書いていなかったのですね。
今までは1話ずつアップするという概念がなく、長さも適当だったのですが、
今回からは少し考えなければいけません。
まぁ…どうなるかはわかりませんが。
とりあえず、序章はこんな感じでした。