夜の紋章に会った。
なぜこんな所にと思ったけれど、そんなことより。
光りに包まれた。
そこにはあの。
闇の、彼。
…テッド。
隠された村にて
紋章に放り出された場所は、うっすらと、しかし濃密な魔力が満ちていた。
木々に囲まれた、人目を忍ぶような小さい村。
そしてテッド。
きっとここは、かつてあったレックナート様の村と同様に真の紋章の守をしているのだろう。
瞠目しているラーグとクレオ。僕は彼等の後ろにいたから気付かれなかったけれど、僕もまた同様に目を見開いていた。
もう一度会いたいと願った。
もう会えないと知った。
でも今彼は目の前にいて。
けれどこの彼は、僕を知らない。
「テッド!こっちに来なさい!!」
その声に返事をしてテッドは駆けていった。
「待って下さい!!」
幼い頃の親友を連れていこうとする老人をラーグは引きとめる。
テッドを家に入れて、その老人は僕等に神妙な面持ちで尋ねた。
「お前達、ウィンディの手の者か?」
「いいえ。彼女とは敵対関係にあります」
「…そうか」
それを信じるか一瞬迷ったようだが、結局それを信じた。
ここで話すこともないと、村長だという老人の家に招かれた。
「お前達は、そもそもどうやってこの村に入ってきたんだ?結界が張ってあったはずだが…」
ラーグが言い淀んでいるので、僕が言う。本人でさえよく分かっていないうえに、テッドに会って混乱気味だ。
「真なる夜の紋章に導かれた。真意の程は定かではないけど、どっかの熊が無礼を働いたからそのせいじゃないかと」
「触っただけじゃねぇか」
「…彼は?…」
「孫のテッドだが?」
「ラーグ。わかってるよね?」
「ああ…」
変えてはならない。これは過去なのだから。
わかっている。
僕だって、わかっているさ。
ゴオオォォオッ
「!!」
炎のけたたましい音。そして決して多くはない村人の悲鳴。それも途切れていく。
急いで外に出ると、かの宮廷魔術師と吸血鬼。それと、黒ずくめの騎士がいた。
燃えさかる家屋と人間の死体を背後に、ウィンディは高らかに言った。
「やっと見つけたよ。さぁ、ソールイーターを渡しなさい」
「こそこそ嗅ぎ付けおって。お前なんぞにくれてやる気は毛頭ない!」
言い終わると同時に、ソールイーターを発動させる。所詮目くらましだが、その隙に家まで戻る。
ああ。ここで、彼は…。
「テッド、お前にこの紋章を託す。そして逃げろ。決してウィンディの手に渡してはいけない」
「じいちゃんは…?」
それに答えず、笑ってテッドの頭に手をのせた。
そして、右手が鈍く光る。
彼はこれから、300年もの孤独を生きていかなければならない。止まった成長を悟られぬよう、定住はできず。追われる身ゆえ、安住もなく。
「あんた達には悪いが途中まででいい。この子を連れていってくれ」
隠されてあった裏口から出て、僕等は進んだ。
だがいくらもしない内に、黒騎士が行く手を阻んだ。
「…っ!!」
対峙してわかる、この男の異様さ。人あらざる者。
「逃げられては困りますね。その紋章をいただかなくてはなりません」
「それはできないね。大人しくウィンディの所に帰りなよ」
僕は解放したまま鎮めておいた真なる風の紋章を発動させる。テッドはここで死なないし、紋章も奪われない。
ならここで、僕等が来たせいで過去を変えないように、こいつを殺さずテッドを殺させないように力を行使する。
「何をしているのです。さっさと取ってしまえばいいでしょう」
「ネクロード…!!」
突然降ってきた吸血鬼の声。それに憤りを隠せずビクトールが声を上げる。
「おや?紋章が3つもあるではないですか。その内2つは…いやに似ていますね。まるで同じもののようだ。」
「!!」
そのネクロードの言葉に目を見張るラーグ。
今この時代に、ソールイーターは2つ存在している。それもこんな至近距離に。
どちらも共存まま成らぬ、その形で。
そんな不安定な状態なのだ。何がきっかけでその均衡が崩れても、何の不思議もない。
「っ!!?」
「うあっ、な…に!?」
その綱渡りの自事態に気付いたラーグが、縄を踏み外した。
それに引きずられ、テッドまでも紋章を暴走しかけている。
「〜〜〜〜〜っああもう!!」
イライラする。
「あまりよろしくないですね。今日の所はいったん引きましょう」
そう言い残すと、闇に巻き込まれる前にと二つの人影は消え去った。
夜の紋章にあったと思ったらどっかの馬鹿のせいで過去になんぞ飛ばされて、小さいテッドに驚かされて、その上軍主の情緒不安定でこの有様?
―――っふざけるのもいい加減にしろ!
「我が真なる風の紋章よ…!」
僕を中心に四方へ風が吹き出す。それは勢いを持っていて、木々はたわんで悲鳴を上げる。
「うわぁっ」
「きゃぁ!」
風がなにかを切り裂くことはなかったが、叩き付けるような強さを持っていた。
しかしそれは、その場に蔓延していく闇を吹き飛ばしていく。いっそう濃い闇に埋もれていた2人は、無理矢理介入してきた風で落ち着きを取り戻せたようだった。
それを見届け、最後に残る闇も吹き飛ばす。
「……ありがとう、ルック…」
聞こえてきたラーグの声に、僕は聞こえなかったフリをした。
ウィンディの気配も去り、生き物の気配すらしなくなった村に戻ると、家々は焼け落ちすでに火も自然に消えていた。
「!あれは…」
クレオが驚いて声を上げる。視線を追うと、それは僕等が出てきた祠で。
「あそこをくぐれば帰れそうだな」
フリックが皆思っていたことを口にすると、テッドが言った。
「ぼくも連れていって!」
「…………………ごめん……テッド…。連れては、いけない」
長い沈黙の後、ラーグは絞り出すように告げた。
わかっている。わかっている。テッドはこれから、300年の、孤独を…。
「でも、憶えておいて。僕は、ラーグ・マクドール。この出逢いがどんなに嘘に思える日が来ても、それは違う。今ここで、こうしてテッドの目の前に僕がいる事実を、どうか信じて」
「……うん…」
テッドはよくわかってはいなかったようだが、ラーグの真剣さにその言葉を受け止めた。
「…行こう。あれがいつまで保っていられるのかわからない」
僕が促すと、皆祠へと向かう。
光りに飲み込まれる寸前、ラーグはテッドへ告げた。
「300年後、また会おう。親友!」
そして、僕等は現世へと戻った。
彼に僕を印象つけてはいけなかった。
だって、彼は僕を知らなかったのだから。
うわぁ時間かかったくせに何だろうこの駄作。
過去編ですが、原作のストーリーをかなり大雑把にしか覚えておらず、どうしたらいいのかかなり困りました。
結果この苦し紛れの捏造。
そしてまだダラダラ書くのが残っているようです。
終らなくて焦りました…。