君に助けてもらった。
全てどうでもよくなった僕に、君は怒ってくれたね。
目が覚めたんだ。
僕はただの甘ったれで。
何もかもから逃げて、頭を抱えて目をふさぎ耳を塞いでいた。
救いの糸を垂らしてくれた君に。
この、想いを。
おにごっこ
はっきり言って、僕は自己嫌悪に陥っている。
テッドが目の前で死んで、それが右手に宿る紋章のせいだと知った。それでちょっと、とは控えめにも言えないくらいに、荒れた。
その時の記憶は残念ながら、ばっちりある。
いや、残念じゃない。あれは忘れてはいけないものだ。
ルックを傷つけた。それも、あんな。あの時僕は笑っていて、確かに、楽しんでいた。喜んでいた。
生きる事が面倒だと心底思っているのにルックが気付いて、憎めと言われた。生きる、理由に。
でも大丈夫だよ。君がいるこの世界があれば、それだけで。
最後にガツンと怒られて、逃げると言われた。捕まえてみろと。
逃げられると追いかけたくなるのは動物の性だよね。逃げなくても捕まえるけど。
ね?ルック。
マッシュの部屋で話をしていると、この部屋を訪ねる者があった。
マッシュが入室を許可すると、書類の束を抱えたルックが入ってきた。
僕の姿を確認すると、目を見開きつつも顔をしかめる。
「?」
やはり、前日までのあの奇行、というか悪行が彼を避けさせているのだろうか。
ルックは僕を避けて、ぐるりと回ってマッシュの横に行った。
「はい。溜まってた分」
「確かに。少しお休みになったらどうです。疲れている上に二日酔いでしょう」
「…悪いけどそうさせてもらうよ」
二日酔い?
「ルッ…」
「!」
手を伸ばすと、ルックは走ってドアへと駆けて行く。
「ちょ、ルック!?」
バタン
「………逃げられましたね」
「マッシュ」
「そんな爽やかに笑わないで下さい。彼と酒を飲んだのは事実ですすが、あなたの愚痴を聞いただけです」
「………………………ちなみにルックはなんて」
「そうですね…」
「…」
「聞かない方がいいでしょう」
深くため息を吐いて、聞くことを諦めた。自業自得なので何を言われていても文句は言えない。
「じゃあ、話を元に戻すけど」
「はい。人手が足りません」
そうなのだ。実は今日の夕食時に呼び出された。私刑を覚悟していた僕に突きつけられた言葉は。
『人手が足りません』
『……は?』
『人手が足りません。過労死します』
と、そこでルックが入ってきたのだった。
マッシュが言いたいことは解る。軍師として仕事の出来る人間がマッシュしかいないのだ。アップルなどが手伝いをしているようだが、書類整理が良いところだ。
つまり、こういうことだろう。
「もう一人、軍師を?」
「是非に」
そう言われても、簡単にはいかない。解放軍の軍師。それは民を生かすため、替えのきかない軍隊を動かすのだ。失敗は許されず、実力を要求される。
「んーんん〜〜ん?………ん〜」
「心あたりがあるようですね」
「マッシュも知っているものだが…これを受けるか、そもそも適任か?…いや、きっと受けない」
こっそりと拳を握りしめて力説する僕を、マッシュは細い目を更に細めて観察する。
「ラーグ殿、誰に何をしたのですか?」
「一生そこでくすぶってろ腰抜けーと言いました」
「どなたにです?」
「……………………………レオン殿に」
「はい決定」
いつの間にしたためたのか書類を取り出し決の判をどんと押した。
それを僕に突きつけて。
「では勧誘してきて下さい」
「僕の話聞いていました?」
「はい。『一生カレッカで世の中をただ見てなにも成さず歴史に流されて歳喰って干からびて死んでみろ腰抜けー』と仰ったのでしょう。では、行ってらっしゃいませ」
そこまでは言ってないという言葉を飲み込めさせられて、僕は部屋をマッシュの笑顔で追い出された。
どの面下げて解放軍入りを頼めばいいのか。どうしよーかなーと半ば自棄でビッキーにカレッカまで送ってもらった。
どうにか無事着くことが出来たようだ。廃れきった、魔物の徘徊する町。
億劫だ。なにがってレオン殿に会うことが。人の気配を探せばいいってのは解るが、魔物だって沢山いるのだ。人間だろうが動物だろうが魔物だろうが、気配の違いは微々たるもの。
…面倒臭い。
これはもう気配云々より、以前会った時の場所を思い出した方がいいだろう。あそこにいるといいなぁ。
ポテポテダラダラノソノソやる気なさげに町を歩く。
もういっそ会わなければいい。マッシュには「なんか引っ越したみたい」とでも言えばいいだろう。
よし、そうしよう。
「テオのせがれではないか。二度もこのような場所になんの用だ」
「お久しぶりですレオン殿。この現赤月の民を救うため解放軍に入ってみませんか?」
「……その似非臭い笑顔を引っ込めろ。だいたい、私はここで一生を過ごせばいいとほざいておっただろう」
「ところが、解放軍のあまり忙しさに反旗を翻し…てはいないがマッシュが人員増員を訴えて。そこであがったのが貴方だったのです。是非にお願い致したく」
胡散臭げに僕を見ていたレオン殿は、次第其その顔を引っ込めて真剣な面持ちで僕の目を見た。
僕は笑みをたたえてその目を見返す。
「……ふむ。よかろう」
「…正直助かります。手ぶらで帰ったらどんな目にあっていたか、今になって思い知ります」
では早速解放軍に…。そうレオン殿に言ったとき、ふと思った。
僕は、どうやって帰ればいいのだろうか?
行きはビッキーに送ってもらった。しかし彼女は解放軍本拠地の地下にいる。いや、焦ることはない。それはいつものことで、帰りは瞬きの手鏡が、いつもの袋に、入っている、筈なのだが。
『一度故郷に帰らせてくんねぇか?ネクロードを倒したこと、みんなに報告してやりたいんだ』
ビクトォーーーーール!!!?帰るのは許可したけど、いつも君が持っていた瞬きの手鏡は一体どうしたんだ!!?どうしたんだい!!!?
まさに立ち往生だ。
結局情けなくも紋章を使い、四苦八苦してどうにかルックに迎えに来てもらった。
「…あんた間違いなく馬鹿だろう」
「いや、仰る通りで御座います」
「てゆうかあんた、それ制御したんじゃなかったの?」
ルックはソールイーターをあごで指して聞いた。
「えーと、それはこの間の転移を邪魔したことを言っているの?」
「他に何があるのさ」
「んーでも、なんかあの時だけ調子よかったみたいで…今はやっぱり魔力は喰われ続けているけど」
「あっそ」
あれ、何か冷たい。
とりあえずレオン殿もいることだし、解放軍まで転移してと頼もうとして近付くと、大げさに反応し一歩下がって身構えられた。遠目に見る顔色は悪く、二日酔いはまだ覚めていなさそうだ。
「ルック…?」
「いいから、さっさと帰るよ!」
いきなり光りに包まれ、それが消えるとそこは既に解放軍だった。
ルックの姿はなく、別の場所に出たことが予測される。
……なんのために?
レオン殿をマッシュの所へ連れていった後、僕はルックの部屋へ向かっていた。
が、途中で彼の後ろ姿を発見した。
声を掛けようとして、ためらった。ルックはふらふらと頼りなげに歩いている。二日酔いが酷い…?
でも、なんだか様子がおかしい。
「…ルック」
「!!」
まただ。距離をとって身構える。そして、警戒して言うのだ。
「…何か用?」
「どうして避けるの?」
「は?」
「やっぱり、ナイフ突き刺したり酷いこと言ったから」
「なに言ってんのさ」
ルックはよくない顔色で呆れた顔をした。
「あんた、僕を捕まえるって言ったじゃないか。僕は逃げるって言ったんだから、避けるのは当たり前だろ」
………………………つまり、捕まえるっていうのは、物理的に?それで、ずっと逃げていたっていうの?
愛しさと笑いが込み上げ、我慢できなくなった僕は吹き出した。
「なっ何が可笑しいのさ!」
「だ、だってルック!は、あはははっ」
「〜〜〜〜!」
「はは、捕まえるよ、ルック。でもね、そういう事じゃなくて。僕を好きになってもらいたいってことだよ」
「別に、あんたのこと嫌いじゃないけど?」
「………」
本人に自覚がないのは重々承知しているけれど、うん。なんというか、やっぱり嬉しい。…反面どこか切ないけれど。
スッと、手をルックに触れようと伸ばせば、一歩引かれてかわされる。
「…」
「…ルック…」
「なに?」
「ルックが足りない」
「意味分かんないんだけど」
腕を伸ばせば逃げる君がいるけれど、その手を掴んで腕に捕らえる。弱々しく抵抗するけれど、それすらも愛しく思いながら強く抱きしめた。
なくなる抵抗を嬉しく思ったのもつかの間、ルックから力が抜けていく。
「ルック!?」
見ると意識がないようで、僕は慌ててリュウカンの元へルックを運んだ。
過労と栄養失調の上に寝不足。それがリュウカンの診断結果だった。常人ならとっくに倒れていたらしい。体力のない彼がこうなるまで堪えられたのは、真の紋章だろう。皮肉にもそれがよくない影響をもたらしたらしかった。
しかし、正しい食生活と生活習慣をすればすぐに快復するものらしいので、あまりに早く鼓動を打つので、そのうち止まるかと思った僕の心臓はどうにか正常に働きだした。
彼の目が覚めたら、とりあえず僕は怒ってしまうと思う。自分のことを棚に上げて、もっと自分を大切にしてと。頼りない僕だけれど、それでも頼って欲しいと。
そして、きつくきつく抱きしめてあげるのだ。
いつか、僕の想いを。
くさっ!何でしょう最後のほう。
はい。今回坊ちゃん壊れ気味です。
ラーグとテイルとベオークを足して3で割ったみたい。
きっと前回と前前回の反動でしょう。
あんまり暗かったので私とラーグのたかが外れたに違いありません。
そしてまた終らない病気。
あれ、長いよ!いつもより長くなってるよ!!
前半レオンさんに時間掛けすぎましたかね。
でもせっかくいつかの時にネタばら撒いといたのに使わないのはもったいない。
そしてリュウカンを出そうと思ったらまるで口調がわからなかったためカットになったのは秘密です。