同盟軍は、ゆっくりと始動を始めた。
器を手に入れ、巨大な的に打ち勝つための準備。
まだ小さなこの軍を、潰してしまわないように。
民の希望であれるように。
仲間を。
3つの種族
フッチャー、と。その男は自らを紹介した。トゥーリバーから訪れたというフッチャーの目的は、同盟軍とトゥーリバーの同盟を勧めるものであった。
「で、どうでしょうかね」
「いいね!」
しかし、フッチャー個人の意見であり、マカイからの使節という訳ではない。
「ではヴァーリ殿、行ってきて下さい」
「やった、遠征だね!」
「!」
そのため、軍主一行はトゥーリバーを訪れることとなった。
シュウは自らトゥーリバー行きを指示したが、ヴァーリが遠征好きであり、その度問題を起こしている事実を忘れていた。しかし、シュウがそれを憶えていたとしても結果は変わらないのだが。
「……。それでは、こちらで船を用意します。ヴァーリ殿は、船を動かせる者をスカウトしてきて下さい。出来るだけ金のかからない方法で」
せめて、船の準備を邪魔されたくないシュウであった。
「やぁタイ・ホーにヤム・クー!ん?あなた達の名前はタイとヤムなの?」
「いや…ホーとクーも付けてくれや」
「じゃあ同盟軍に入ってよ!」
船乗りを捜してこい、とのことで、ヴァーリが最初に浮かんだのがタイ・ホーであった。コロネからクスクスへ行く際に手を貸してくれたのがこの2人であったためである。
「んな無茶苦茶な…」
「アニキ、ちんちろりんで勝負すると痛い目見るのはこっちですぜ」
蘇る苦い記憶。前述の通り、危険を冒してまでコロネからクスクスへ船を出すには、タイ・ホーの出す条件をのむ必要があった。それがチンチロリンで勝つことである。ヴァーリはそれを聞き、特別ルールを提案した。
上限3000ポッチではなく、手持ち3000ポッチからの3回勝負。上限無し。それを飲んだタイ・ホーは3回連続4,5,6の強運の持ち主に、しめて81000ポッチを支払った挙げ句船を出すことになったのである。
タイ・ホーはヤム・クーの在る意味助言を聞き無償での同盟軍入りを果たした。
そんなわけで、足を手に入れた一行はレイクウェストを経由しトゥーリバーへと入った。が、途端黒翼を背に携えたウィングボードの少年に体当たりされた。
「わっ」
あっという間に少年は走り去ってしまう。しかし、ヴァーリは悪鬼の形相で駆けだした。だんだんと遠くなる声は「待てこんのクソガキャー!!!!!」というおよそ軍主の発して良い言葉とはかけ離れていた。
「ちょっと、なんなのさ?」
「たぶんお金取られちゃったんだよー」
顔をしかめたルックにナナミはにこにこと笑顔を保ったまま答える。どうやらヴァーリが金にがめついことには慣れているらしい。
少しするとヴァーリは盛大に舌打ちをしつつ戻ってきた。
「大丈夫だよヴァーリ。きっと戻ってくるよ!」
「そうだよね、金づるなんてどこにでもいるよね。ありがとうナナミ!元気出たよ!」
ここで明記しておくが、ナナミは至って素である。
「…じゃあ、そろそろ市庁舎に行かない?」
その時である。フッチャーらしき人物の悲鳴が聞こえてきたのは。
「ちょ、ちょっと待って下さいってば!!!もうすぐ軍主様がいらっしゃいますからーー!!」
ヴァーリとナナミは顔を見合わせて、声のした方へと駆けていった。
マカイの取ってくれた宿で一泊を過ごし、翌日市庁舎に赴くと荒い声が聞こえてくる。
部屋に入ってみると、リドリーが大変立腹しており、ヴァーリが来たことにも気付かないほどであった。
「どうかしたんですか?リドリーさん」
「おお、これはヴァーリ殿。すみませんがこれで失礼させていただく」
言うと、どかどかと歩き早々に去ってしまった。それを見送った後、改めてマカイに向き直るとどういうことなのか説明を求めた。
「ああ、すみません。私にもどういうことなのかさっぱりでして…リドリー殿が人間と戦うことは出来ないと仰られて、どうしていいのやら…」
ヴァーリはにこにこと外ズラをそのままに、内心このおどおどしたマカイをウザイなぁとか思っていたりする。これ以上話していても進展は望めないので、ヴァーリは話を打ち切り「リドリーさんに聞きに行ってみます」と市庁舎
を後にした。
「まったく…面倒になってきたな。僕帰ってもいい?」
「駄目だよルック。ルックはお目付役としてシュウに言われたんでしょ?」
「…そもそも、子供だけで行かそうってのがおかしいんだよ」
忌々しげにルックは言う。
同盟軍は人手不足である。それであるにもかかわらず、有能なルックを何故ヴァーリに付けたのか?それは、現在の同盟軍は肉体労働を必要としているからであった。ならば、他の体力を持てあましている者を何人も付けるより、紋章であらかた解決できるルックを一人付けた方がいいだろうとシュウが判断したからである。
「くそ…余計なことしてくれるよあの軍師」
さすがマッシュの教え子。と、思わずにはいられないルックであった。
ため息を盛大について、諦めたようにコボルトの居住区へと向かうのであった。
久しぶりのラーグ編。しかし書き方を忘れたのかも知れない。
いや、プロットもどきを立てたのがいけなかったのか…
長くなりそうだったんでいったん区切ります。