生ぬるい風が吹き抜ける夜の屋上。あまり広くはないこの場所で、ルックは歌っていた。

階下は軍主の部屋なので、声が漏れぬよう屋上へと続く通路の空気を三十センチばかり真空にした。振動を伝える空気を遮断したのだ。

誰もいないはずの屋上で、膝を抱え歌う。

それは、どこともつかない異国の言葉。
「ルック」


「!」

誰もいないと思っていたルックは驚き振り返る。

「…何でいるのさ」

「本当は黙って聞いているつもりだったんだけどね」

一旦区切り、笑みを消して尋ねた。

「今の歌は、どういうつもり?」

「…わかったの?」

「うん」

万が一聞かれてもと、わざわざトランから程遠い国の言葉を使っていたのに。なぜこの男はそれを知っているのか。

察したのか、ラーグは答えた。

「三百年歳の先生がいたからね」

「あいつ…」

余計なことを。

「それで、どういうつもり?」

「別に…」

歌は、自らの死を暗示するものだった。

歌は、故郷を蔑むものだった。

歌は、世界の終焉を嘆くものだった。

そして、想い人よ。どうか一人でも生き抜いて…

「…そういう歌なだけだよ」

「嘘はつかれたら見破るものなんだよ」

「…」

歩み寄るラーグ。動かないルックに触れ、先を促す。

「…君は、僕が死んだら生きていなそうだ。でも、生きていて、ほしい。だから…」

「残念ハズレ。ルックが死んでしまったら、どんなことをしてでも取り戻すよ」

「!」

「でも…そんなこと、もう言わないでね」

苦笑してラーグは言った。

ルックは泣きそうな顔をして、小さく、自分で破るだろう願いを苦しげに吐き出した。

「        」

それは、遥か昔に滅んでしまった国の言葉。

「!」

ラーグはルックの腕を引き、小さな躯を抱き締めた。


「ずっと、君の隣にいるよ」




ルックの願い。


「そばにいて…っ」

でもそれだけが、彼にはできない。


 

 



また携帯で... 短いのは大抵それです。