随分待たせしまったと申し訳なさそうな顔をするワイリーに、とんでもないとバブルは笑う。 脚部のパーツはそのままに、欠陥のあった小さな部位だけを取り替える。その数センチの部品にワイリーが費やした時間は膨大なものだった。 開いた人工皮膚を元通りつなげ、ワイリーはふぅ、と一息。
バブルは惑うことなく立ち上がる。ワイリーの作ったものに迷いなどあるはずもなかった。 問題なく立ち上がり、自らに歩み寄るバブル。その姿に笑顔をこぼした。ワイリーの笑みは、愛しい息子を見る父親のものだった。
ほどなく、新しい足をもらって一年。バブルが作られた日から数年。同じ日にワイリーは足を授けたのだ。 なんだかんだ、今まで何もしていなかったこの日。戦いがあったり、みんなで出かけたりと慌しく過ぎた日々。最近のこのまったりとした雰囲気も悪くない。戦闘用ロボットが何を、と笑いももれる。 去年のいつごろだったか。兄弟の一人を祭り上げ騒ぐことがあった。データをさらえば各々の製造日。いわゆる「誕生日イベント」をしたのだとようやく気づく。 しかし、バブルは違う考えを持っていた。
一番わかりやすいのはプレゼントだ。しかし、浪費の激しいバブル。どこから仕入れるのか持っているときは驚くほどの大金を所持しているのに、翌日には無一文なんてこともある。今は無一文ほどひどくはないが、全額出しても大した物は贈れない。ワイリーに中途半端な物などあげたくない。どうしようかと首をひねったときだ。周りの大きな叫び声。落胆の、驚愕の声。バブルも釣られるように顔を上げた。
「あー・・・・・・」
バブルは競馬場にいた。
ゴホン。わざとらしく(まさしくわざとであるが)咳をしたのは長兄メタル。 「もうすぐバブルの製造日記念パーティーだ。なにか意見のある者はいないか」 「あ、バブルって」 「そこ!発言は挙手してからにしなさい!」 なんだか面倒くさくなってしまったフラッシュだが、とりあえず腕を上げた。 「はい、フラッシュ君」 「うぜぇし。バブル温泉好きだし、旅行にでも行かせてやればいいんじゃないか?」 「却下!!」 「えー?いいと思うけどなぁ」 「ねー」 ウッドとヒートがほのぼの賛成する。なんで?と二体そろって首を傾げれば、後ろから「かーわいいなぁ!」と抱きつくクラッシュ。エアーもその光景を微笑ましく見ていたが、棄却の理由を尋ねる。 「なんで駄目なんだ?」 「俺が同行できないものは承諾しかねる!」 「うわぁ・・・」 「みんなで行けばいいんじゃねーの?」 「クイック、うちの財政状況を知らないんだろう・・・」 「うっ」 「出せてバブル一人分!何日もバブルに会えないなんてお兄ちゃん暴走しちゃうぞ☆」 「ずっと前はなんでもなかったのにねぇ」 「でも、任務で長期いないときは機嫌悪かったかも・・・」 ひそひそ話す声はメタルには聞こえない。 その後も皆が意見を出すがメタルが駄々をこねる。何時間もの話し合いがその繰り返しでつぶれていく。 メタルはいまだやる気満々だが、フラッシュなんかはイライラしている。あきれたり、遊びだしたり、寝ていたりするものもいる中律儀に付き合ってやるところが涙を誘う。 「ええぃ埒があかねぇ!」 「バブルのパーティーに妥協などできん!」 「お前がバブルと遊びたいだけじゃねぇか!」 「文句あるか!!」 「ないわけあるか!!」 ぎゃあぎゃあと騒ぐその腕が何かに当たった。
「ヒート!!」 「ウッド!近づくな!」 「えっ?」 エアーがウッドの腕をつかみ引き止める。しかし、己の緊急異常事態にスリープモードが解除されたヒートが叫びながらアトミックファイヤーを噴射する。まったくの唐突のことにヒートは混乱していたのだ。その炎の飛び火がウッドへと近づく。それに慌てたウッドがリーフシールドを展開。ウッド自信に着火しなかったものの吐き出された木の葉は燃えてしまう。ウッドの腕をつかんでいたエアーを見ればプロペラを詰まらせいてた。ウッドが葉をある程度とり去ったころエアーがプロペラを回し残りを吹き飛ばそうとしたが思いのほか奥に詰まった葉にによりエアーシューターが発され運悪くクラッシュに直撃。その衝撃でスイッチの入ってしまった暴走中のクラッシュが炎の中暴れアイカメラに映ったフラッシュへクラッシュボムを投げつける。慌ててタイムストッパーを使ったまではよかったが、近くにいたクイックまで巻き込んでしまう。止まった時が動き出すとプッツンしたクイックがメタルにクイックブーメランを投げつけ、応戦しようとメタルがメタルブレードを放つ。すべてが合わさり、大きな爆発。
バブルは帰路についていた。手には大金の詰まったアタッシュケースを二つほど持っているというのにその表情は浮かない。結局プレゼントが決まらなかったのだ。 (目星をつけてまた街に行こう) そうでなくては無駄に歩き回るだけだ。もうすぐ研究所、というところで前方にワイリーの姿を見つけ駆け寄る。 「博士!」 「おお、バブル。出かけておったのか」 「うん。街に行ってたんだ」 そうか、と微笑むワイリーにバブルも嬉しくなって笑う。 ワイリーに直接ほしい物を聞いてみるのもいいかもしれない。本人が一番ほしいものがやはりいいだろうと。 「博士、欲しいものはない?」 「なんじゃ唐突に」 「もうすぐ、博士が僕を造ってくれてこの足をくれた日だ。どうしても博士に何かしたくて・・・博士にはいつももらってばっかり。こんな日こそ博士に何かを返したいと思って」 それを聞くとワイリーは目を真ん丸くして驚いた。その後顔をくしゃくしゃにして笑う。バブルの頭をなでた。 「その気持ちだけで十分じゃ」 「でも」 「お前がそんなことを言ってくれるから、わしゃ涙が出そうなくらい心があったかいぞ」 「・・・っ」 「ありがとうな、バブル」 「・・・うん」 コアが暖かくなる。冷却水が出そうだったアイカメラを上へと向ける。 「・・・ん?」 もくもくと空へと昇る黒煙。夕焼けの橙がやさしかった。 ワイリーとバブルは入り口から10メートルほど離れた場所で立ち止まった。立ち尽くした。 「・・・なにこれ」 「わっわしの研究所ーーー!!!!」 そこには半壊した研究所兼自宅があった。 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「博士」 「・・・・・・なんじゃい」 「これ、僕の気持ちです」 「アタッシュケース?」 「お金。何も言わずに受け取ってよ・・・」 「こんな大金・・・お前」 「・・・・・・ちょっと競馬で」
奇跡的にマザーコンピュータは無傷。研究所を修理(むしろ改築)しつつ有り合わせで三男を除く兄弟がメンテナンスされた。 バブルの製造記念日には、パーティーとは名ばかりのロボット用の酒が振舞われたくらいで何もなかった。したくてもできなかったのは言うまでもない。 もちろん、しばらくバブルに頭が上がらなかった兄弟達がいたのも、言わずもがなの話である。 |
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