黄色いテープ張り巡らせて

 誰も彼もを拒んでる


 

keep out !!


 

 暗く深い海の底が好きだ。誰に会うこともなく、なにに合うこともない。

 静寂。

 ひどく心が安らいだ。何も見たくない。聞きたくない。造られたことを博士に感謝すれど、どこかで嘆く自分。ああ、ただのパーツでいられたら。

 この近辺にはないが、もっと深い海に焦がれる。あの欠片の光も届かない暗闇は、僕を受け入れてくれるだろう。何も拒まず、たゆたう水に飲み込まれて。

 この体は、どこまでの水圧に耐えられるだろうか。

 べこべこにへこみ押しつぶされていく自分を想像して可笑しくなるが、その時点で馬鹿らしくなった。

 時間を考えて、遊泳をやめる。帰ろうか、あの水槽へ。とらわれた魚のように。

 

 

 帰ったころには、とうに日付は変わっていた。部屋の中も暗い。談話室と自室は水路でつながっている。そのまま自室へ向かおうとしたとき、急に電気がついた。誰だろうと気にならないではなかったが、そこまでの興味もなく通り過ぎようとした。

 パシャ

 それは小さな水音だった。その音と同時に、僕は右脚部を膝関節の辺りから失った。

(メタルブレード・・・)

 底に刺さったそれを見て認識する。なんて面倒なことになったのか。通信が入る。

『バブル』

『・・・これはちょっと、ないよね』

『まさかいるとは思わなくてな』

 いなかったら無闇にブレードを放つのか。いるのを確信してやったろうに白々しい。

『右足がないな。俺のブレードと足を持って上がってきてくれないか』

 なんで右足がないことを、覗き込んでもいないメタルがわかるんだ。足を切り落としたのまでわざとときた。

 メタルは何がしたいんだろう。

 たまに、メタルは僕に不思議な行動を取る。よくわからない。

 仕方なしにメタルに言われたとおり足とブレードを持って浮上する。破損しているとはいえ、水中を出るのには抵抗があった。いやだなぁ、なんて考えているとメタルが手を伸ばして僕を引き上げる。引き上げて、途中でなくなった足を見た。

「・・・メタル?」

「ラボに行こう」

 濡れた装甲も歯牙にかけず、そのまま抱えられる。


 破損した足を見たメタルは、笑った気がした。

 

 

 いつもキビキビ動く一番目の足取りは、今日に限って緩慢だ。抱えられたままの移動は好きじゃない。居心地が悪いし、妬ましくて、惨めになる。

 いつもの倍は時間をかけて、ようやっとラボについた。

 博士はいない。5番目と6番目を造る参考資料を探しに、一週間ほど留守にすると言って出て行ったのh昨日のことだ。

 メンテナンス台に僕を下ろすと足の装甲を外す。あらわになった人工皮膚。切断面から覗くのは肉片でなくコードだ。その面をそっと撫でられる。

 ぞわり。言いようのない不快感が襲う。

「・・・早く直してよ」

「無理だな」

「え?」

「パーツの替えがなさそうだ」


 嘘だ。


 戦闘機である僕達はよく破損する。だから、博士は常に予備のパーツをいくつも保存しているのをみんな知っている。メタルも碌に見もせずにあっさり診断。

 直す気など、初めからないのか。

 膝の関節からすっぱりなくなった右足を一瞥。目を閉じる。

 

 他の何かも閉じた気がした。

 

 

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