たんたんと、たんたんと。

風は何を想うでもなく生きていた。

檻から出された風は吹きすさぶことなく、

魔女の住む島に留まった。



残留粒子と欠片



 レックナートに呼ばれたルックは、その身を霧散させ魔女の前にて再構築した。

「………」

 ルックはレックナートを見、無言のまま師の発言を待った。口を開いたレックナートは、感情を見せずに言う。

「出迎えなさい。もうすぐ天魁の子等が来ます」

「はい」

 短く一言だけで変じをし、来たときと同じように出ていった。

「…」

 残されたレックナートは、この「人」との出会いがルックに、どのような変化をきたすのかを思った。

「哀れなる風の子に、幸あらん事を」

 言って、ため息を吐いた。



「ここか」

 塔の前に、5人の人物が立っていた。

 一人は筋肉質の、頭に鉢巻きを巻いた格闘家らしき男。

 一人は鉢金から布を垂らした女傭兵を思わせる女性。

 一人は金の髪を項で緩く結び、頬に十字の傷がある男。

 一人は青を貴重にした出で立ちに弓を背負う少年。

 一人は赤い服を身につけ、黒の髪をバンダナで覆った少年。

 ここまでひいらぎこぞうしか出ては来ず、些か長い道のりでありながら苦労もなく辿り着いた。

 赤い服に棍、頭にバンダナを巻いた人物が呟く。

 至って面倒そうな面持ちで、塔への一歩を踏み出す。

「だめ」

 突然背後から声がした。自らが引き連れてきた者達のものではないし、初めて聞く声だと断言できる。

 一度聞いたら、もう忘れることなどできないであろう声。静かに、そっと呟くように。声に力はないのによく通る声だった。

 バンダナの少年、テイルは振り返る。一段上った階段から、塔の前の開けた地を見る。

 ぽつんと一人。

 一糸乱れぬ絹の髪に、美しい顔の造形。しかしそこにはめ込まれたのは、深い緑の、死んだガラス玉。

 その目を見て、テイルはその人物がつまらないものと決めた。

 テイルが口を開く前に、テッドがぽつりと呟いた。

「あいつ…」

「知り合いか?」

「あ、いや全然」

 テッドを一瞥し、ルックを見る。

 手にした杖を、トンと軽く地に立てた。

「決まりだから、倒して」

「は?」

 サラサラと、硬い大地から細かな砂が溢れそれは形となった。

「これを倒せってか」

 まったく、と一層面倒そうに顔をしかめ、

「お前等やれ」

「お前なぁ〜!」

「まぁまぁテッド君。ほら、来ますよ!」

 踵を返し、クレイドールから離れ木の根元に腰を下ろす。クレイドールと戦っている4人に目を向けつつ、その後ろに、微動だにせず突っ立っている魔法使いを見る。

 至って無表情。生きているとは思えないほど動きは見られない。まるで置物。美しい造形とその様から白磁の人形を連想させる。

 そのルックの方もまた、戦う4人越しに天魁星を見ていた。しかしガラス玉は輝くこともなく死んだまま通り過ぎ、今闇を宿す人物に留まる。

 そうしている内に、クレイドールは音もなく消え去った。

 そこで漸く、ルックは動いた。人形に息を吹き込まれたのかと思うほど、ルックは立ちつくしていたのだ。

「ようこそ、帝国の皆様。レックナート様は最上階です」

「最上階って…」

 誰かが呟き、皆が上を見つめる。遠近法により、頂上は限りなく小さく見えた。

「…………」

 誰もが閉口する沈黙が続き、パーンが覚悟を決めたように一歩を踏み出す。それにゆっくりと続こうとしたとき

「上るのが面倒でしたら、送るように言われてますが」

 ルックは言った。

 絶妙にずれたタイミングで言われ多少の憤りはあったものの、さすがに上るよりは送ってもらう方に魅力を感じる一行であった。



 クレオに火の紋章を与えたり、テイルに助言したりとレックナートが行ったが、星見の受け渡しは滞り無く過ぎ去った。

 では帰ろうとなると、レックナートはルックを呼ぶ。

「ではルック、彼等をお送りして差し上げなさい」

「はい」

 音もなく現れたルックに、いつの間に来たのかと驚きの声が挙がる。

 杖をすいと前に出したルックは、転移を風に促した。その瞬間、テッドを一瞥して。




 初めての邂逅はこれでおしまい。特に何があるでもなく、互い印象に残る出もなく。

 忘れ果てて再開を果たす。
 


 それまでは、交差することなく。











すみません。なんとも不完全な感じに仕上がってしまって…!!!
ルックもテイルも動いてくれない!!
とりあえず出会い話は諦めて(オイ)今後への布石だけちろっとまいて終ります…