テッドは嘘が嫌いだった。
「遙か昔にした約束が、嘘であることを認めたくなかった」
そう言ったテッドは、叶ったから、認めなくてよかったと語った。
だから、言ったことは守るのだ。
守ってきたのだ。
嘘
星見の結果をクレイズに渡した後、一行はそのまま、しかし無理矢理着いてきたカナンを同行してロックランドへ訪れた。新に下された命は、税金を納めない理由を問いただすこと。
「んなもん聞くまでもねぇだろうが」
「まぁまぁお坊ちゃんよ、そう言いなさんなって」
町を見渡せば、干からびた土地に餓えた人々。辛うじて水は確保できているようであるが、その井戸の数も少ない。酒場に入れば突然静まり返り、決して目を合わせようとしない。しかし、その目には抑えきれない激情が読みとれる。
帝国が憎い、と。
町を治めるべき者が私腹を肥やし、その悪行を皇帝は咎めない。突然増えた税は町民のためではなく軍政官庁グレィディのために貯蓄される。それはやがてエスカレートし、帝国に治めるべき税金すらグレィディのものとなった。
「どう考えてもそのグレィティ?とか言う奴が下っ腹肥えさせてんだろ。証拠なんぞどうでもいいからしょっ引いちまえばいいじゃねぇか。なんのための権力だ」
「ティじゃなくてディな。まぁそうもいかねぇんだろ。枝葉どころか根から腐ってんだからな」
明らかにやる気のないテイルをいさめつつ、テッドは確実に一行と距離を置く。クレオやパーン、グレミオに聞かれるのはいいが、カナンに聞かれてはいつ終わるかわからないお小言を喰らうことになる。しかし勇んで先頭を歩くカナンには聞こえず、テッドの杞憂に終わった。
「おい!グレィディはいるか!」
カナンがドアノックを乱暴に数回叩き付け、返事も待たずにドアを開け言い放つ。すぐ傍にいたグレィディの部下らしき男が何事だと怒鳴った。しかしカナンは逆に怒鳴り返し、帝国から来た親衛隊に無礼だと主張する。
「えっ、帝国から?少々お待ち下さい!」
男は口調を改め、慌ててグレィディの元へ駆けていった。すぐにグレィディが現れ、中へと案内された。
「納税が滞っているようだが?」
テイルが尋ねた。どのような言い訳を返してくるのか。
「私どもも困っているのですよ。近くの山に山賊が住み着きまして、作物やらを荒らしていくので町民から税を取ることもできず…」
鼻で笑って、テイルは冷めた目で笑う。それにビクリと肩を振るわせ、しかし笑顔を保ったまま用意してあったセリフを言う。
「しかしこれで安心ですな!」
「は?」
「親衛隊の方々が来て下さったのです。山賊どもを退治して頂けるのでしょう?」
「ふざんなよ。誰がそんなめんどくせぇこと…」
「ま、任せておけ!我等がその山賊どもをとっ捕まえてやろう!」
テイルの言葉を遮り、カナンが口出しをした。それにテイルはいたく気分を害し、カナンを殴り飛ばしてやろうかと思考を巡らせた。
「坊ちゃん」
静かにテイルを咎める声。すっと背後に忍び寄り、クレオは言う。
「駄目ですよ。わかってますね?」
「はいはい、わーったよ」
ため息混じりに了承して、テイルは部屋の隅に下がる。カナンは話を進めており、さっそく山賊退治に出かけようという話になった。
「…清風山の場所は聞いたのかよ」
「こ、これから聞こうと思ってたんだ!」
「お前さぁ、カナンにあんな態度でよく何も言われねぇな」
清風山を上りながら―――と言っても内部は洞窟のようだが―――テッドは先程から疑問に思っていたことを尋ねた。
「あぁ、あいつ昔俺に付きまとってた時期があってな」
「……苦労したな」
「何考えてんだ。“将軍”へのコネが欲しかったんだよ」
「はいはい、そういう事ね」
「その時に、いい加減ウザくなって、なぁ?」
テイルは振り返りカナンを見やる。聞き耳を立てていたカナンは慌てて目をそらした。
「おっおれは知らんぞ!」
「まぁ、こんな訳だ」
「へー」
それから半刻ほど魔物を蹴散らしながら進んだ所で、悲鳴が聞こえた。声の高さから子供、又は女と判断する。
声のした方へと駆けた一行の目に映ったのは、今まさに魔物の歯牙にかかろうとしていえる子供だった。
魔物との距離もあり、外郭も硬そうだ。矢やナイフでは跳ね返されてしまうだろう。
「くそっ」
悪態を付いて、テッドは右手を突きだした。
「おい!!」
テイルが慌ててテッドの肩を掴むが、既に魔物は闇に包まれ消えていた。
「今のは…」
グレミオの呟きにテッドは「今は言えません。でも、いつか必ず…話します」とだけ答え追求を逃れた。
「クレオさん、この子をロックランドまでお願いします」
「ああ」
グレミオの願いを了承し、泣く子供をなだめる。
「まったく…なんだってこんな所にいるんだい」
「ひっく、う…お姉ちゃん達…帝国の人でしょ…?」
泣きながらも、憎しみに満ちた目で一行を見る。
「なんだこのガキは?」
カナンが子供を汚物でも見るような目で見やり、このままでは子供にカナンが殴りかかるかもしれないと、クレオはさっさとその場を後にした。カナンが見えなくなる間際に、子供は叫んだ。
「帝国なんて滅んじゃえー!!」
「なっこのガキ!」
言うと子供はさっさと行ってしまう。クレオが苦笑をして後を追った。
「大方、山賊に入れて貰おうとでもしたんだろうな」
「なに!?ではあのガキを捕まえ…」
「は?」
目を細め、テイルはカナンを見る。
「ま、まぁいい!先を急ぐぞ!」
それに続くグレミオとパーン。テッドも歩き出そうとするが、険しい顔でテイルが呼び止めた。
「おい」
「大丈夫だ」
「………」
「大丈夫だよ」
ぽんとテイルの肩を叩き、テッドは先に歩き出したグレミオ達に続いた。
「……ちっ」
舌打ちをしてテイルもそれに従う。先を歩くカナンは、先程の光景を思い浮かべる。
「あれは…まさかウィンディ様が探しておられる…」
カナンの呟きは、岩壁に反響することなく消えていった。
パーンがバルカスを担ぎ、グレミオがシドニアおぶりどうにか山を下りる。ロックランドに着くクレオと合流し、途中で目の覚めた二人を連れグレィディの屋敷へと赴いた。
「いやぁさすが親衛隊の皆さんですね!あっさりと山賊どもを捕らえてしまうとは感服いたします」
「なに、これしきのことなど造作もないわ!はははは」
「どうぞお納め下さい。ほんの気持ちでございます」
それを嬉々と受け取ったカナンに、テイルは盛大に舌打ちをして一行はロックランドを離れグレッグミンスターへの帰路に着いた。
「やっと着きましたね」
「まったくだ。早く飯が食いたいぜ」
「あたしはそれよりシャワーを浴びたいよ」
皆がそれぞれに感想を述べ、テッドはパーンの意見に同意した。夕食に同席して良いかを尋ね、大手で了承された。
「やった、グレミオさんの作るシチューは最高だからな!」
そのままマクドール邸に帰宅しようとした一行だが、カナンがテッドだけを呼び止めた。
「テッド、お前はおれと来るんだ」
「は?お前なにほざいてんだ」
およそ正しい返事にはほど遠い返事をしたのはテッドではなくテイルだった。瞳孔が開き、口元に表情は伺えないがその目は明らかに友好的ではなかった。
テッドはそれに面倒臭そうに尋ねる。
「なんで行かなきゃならねぇ訳?」
「いいから来いといってるんだ!」
「あーはいはい。行けばいいんだろう行けば」
「おい!!」
「大丈夫だって」
「…っ」
「帰ってくるから。というわけでグレミオさん、オレの分も御飯取って置いて下さいね!」
笑って、テッドはカナンの後を着いていった。
苦々しげに顔を歪めたテイルはその後ろ姿を、硬く手を握りしめて見送った。
うわぁカナンがいっぱい出てくるー。
……。
えー、ゲームをやり直すと、魔術師の島から本拠地入手まで結構あるなぁと思いまして、
テイル人格確認のためにもちょっと入れよう、と思ったらこんなことに。
というか、幻水の話を書いていて、テッドを出したくなります。
やっぱり好きなんだなぁと再確認。
子供がなんか出てきてますが、テッドに紋章を使わせるためには必要だったのです。
だって、テイルがモンスターに勝てないって膝を折るシーンが思い浮かばなかった!
ので仕方なくあんなことに。