「テッド!!」

「はは……ちゃんと…帰って来ただろ…?」

「どこが大丈夫だってんだよ!」

 居間で足を組み苛々とテッドを待っていたテイルだが、ガタと小さな物音を聞きつけ急いで玄関へと向かった。

 そこにはボロボロで倒れているテッド。テイルは駆け寄った。

 テッドはどうにか上半身を起こし、テイルを見やる。

「お前と、初めて交わした『一生のお願い』…ちゃんと憶えてるか…?」

「……………」

「……頼んだぞ…」

 テッドの右手は輝き、それはテイルへと宿った。


「…………ごめんな…」




帝国の反逆者達



 ソウルイーター。27の真の紋章で、最も呪われし闇の紋章。

 それは今、テイルの右手に存在を誇張していた。

 300年間、それはテッドに宿っていた。そのテッドは、生きているかすらもわからない。ウィンディに捕らえられ、幽閉されたか、殺されたか。

 テッドを気にかける余裕もなく、テイルはグレッグミンスターを出る際助力したビクトールとの約束に従いレナンカプへと赴いていた。

「こっちだ」

 ビクトールに案内されたのは、「けやき亭」という料亭だった。

「よう。いつもの部屋、誰もいないだろうな?」

「もちろんいませんよ。いつもご予約でいっぱいですので」

 カウンターに立つ青年に話しかけ、青年は冗談めかして笑う。ビクトールも笑い、端の部屋へと入っていく。

「坊ちゃん、あの男、絶対怪しいですよ」

「まぁなぁ」

  グレミオに適当な返事をして、テイルは面倒臭そうにビクトールに続いた。

「そうは言っても、助けて貰った見返りなんだ。その会わせたい人とやらには会うのが筋だろう」

 クレオが苦笑し、付け足す。

「それに、坊ちゃんが行くなら行くんだろう?」

「もちろんです!」

 勢いよくそう返し、二人も端の部屋へと入った。

 ビクトールは、大きな振り子時計の前に立ち、文字盤の保護ガラスを開き長針を回した。短針が真上まで来ると、

 ゴーン、ゴーン、ゴーン

 時刻を告げる鈍い音。それに紛れるようにして、時計は横へと動き、隠していた入り口を曝した。

「これは…」

「まぁ、とにかく入ってくれ。人に見られるとまずいからな」

 ため息をもらし、テイルは階を降りていく。



 

「まぁ、こんなことだろうとは思ったけどな」

「と言いますと?」

 グレミオが石段を下りながら尋ねた。

「反乱軍」

「えぇ!?」

「いや…解放軍か?」

 降りきったところで、テイルは足を止めた。暗がりの中から軽い足音。うっすらと見え始めた姿は明らかに女のものだ。

「ご名答。でもどなたかしら?帝国軍には見えないけれど」

 現れたのは長い髪を背中に流した若い女性。毅然とした態度と活力にみなぎる目が印象的だ。

「どなたって…それはこっちが聞きたいよ」

 クレオが言うと、ビクトールが豪快に笑って入る。

「すまんすまん。オデッサ、オレが連れてきたんだ」

「ビクトール!あぁ帰ったのね。帝都の様子はどうだった?いえそれよりも、また何も言わずに連れてきたのね。この人達困ってるじゃない」

「そうですよ!反乱軍だなんて…テオ様に合わす顔がないです!」

「テオ?テオ・マクドール?あなたテオ将軍の子息ね!」

 戻ってこないオデッサを不審に思ったのか、奥から数人の足音がする。テイルはお構いなしに言った。

「よく口の回る女だな」

「よく言われるわ」

「オデッサ!!」

「あぁ?いやに青い奴だな」

「なっなんだお前は!」

 オデッサはその青い装いの男に向かい、言った。

「テイル・マクドールよ。指名手配中のね」

「なっ…!」

「………俺に騒いで忙しいだろうが」

「なんだ!」

「誰かくたばりかけてんぞ」

 後ろを向いたテイルの視線の先、折り返しの階段の踊り場から力無く投げ出された手が覗いている。

 それを目に留めると、オデッサはすかさず指示を出す。

「ハンフリー!フリック!寝台へ運んで!サンチェスはタオル、ビクトールは水を持ってきて!」

 体格的に考えれば、フリックではなくビクトールに運ばせるのが妥当であろう。しかし、やや雑であるため、その役はフリックへと移される。

 寝台へと寝かされ、瀕死の状態でうなされながらも男は呻くように言葉を紡ぐ。

「オデッサ様…どうか、バルカスの兄貴とシドニアの兄貴を助けて下さい…」

「バルカスとシドニア…清風山の山賊ね」

「清風山のアジトに居たら、いきなり襲われて…オレはすぐに気絶しちまいましたが、あれは、やつは…」

 そこまで言って、その時の光景を思い出したのか震えだす。多勢に無勢。有利なはずの自分たちの方が見る間に倒されていく光景。たった一人に、為す術もなく昏倒していく仲間達に、自分。目が覚めたとき、そこに頭であるバルカスやシドニアの姿はない。

「……っま、町に降りたら兄貴達はグレィディに捕まってて……このままじゃ、磔にされたまま死んじまいます…!」

「磔!?そんな、裁判もなしに磔だなんて極刑、ありえません!」

 グレミオが驚きを隠せずに声を上げた。

「これが、赤月帝国の現状よ」

 山賊の男が、突然悲鳴を上げた。何事かと慌てて見れば、男はただ黙っていたテイルに指を差して端へ端へと逃げようとしている。

「どうしたの?テイルがどうか…」

「こいつだ…っ!こいつ、こいつが…!!」

 男はただ脅えており、これでは意をくみ取ることは難しい。しかし、オデッサはそれで理解したらしく、テイルに言った。

「貴方は今、限りなくこちら側にいるわ。なら、尻拭いくらいしてくれても良いわよね?」

「……めんどくせぇ女だな」

 ため息を吐くも、地に付けていた棍を持ち上げ階段を上り始める。

「坊ちゃ〜ん!!待って下さいよ!」

 はっと気付いたように、グレミオが追いかける。やれやれ、とそれに続くのはクレオで、ビクトールもそれに同行しようと階段を上った。



 テイルは、確実に帝国に反する道へと進んでいた。

 僅かな憂いと、怒りを胸に。
















…あれ?ひょっとしなくても全然進んでないですよね。
なぜだ!まぁ、今回はオデッサメインと言うことで…