カチコチカチコチ
時計は時を刻み続ける
カチコチカチコチ
静かな部屋に、小さいはずの音がいやに大きく聞こえる
カチコチカチコチ
立ち上がったため落ちた、足にかけていた毛布の布ずれの音がする
スルスル、カチコチカチコチ
彼の目は虚ろいでいて、合っていない焦点は何を見ているのか
コツコツ、カチコチカチコチ
歩む先の部屋の隅
カチコチカチコチ
音もなく、置かれた木製の時計を持ち上げた
カチコチカチコチ、ガシャン
勢いよく壁に投げつけられた時計は、外装は壊れていないものの、内部ではゼンマイが外れているらしい
カチ、カチ、カチ
針は進むことを止め、ただ僅かに震えるだけになった
「煩わしい…」
ルックは時計を持ち上げ、尚もそれを壊そうと床に打ち付け続けた。
開け放たれた窓からは、三日月の光りが差し込む。
バタバタと駆ける音がして、ドアが部屋の主の許しを問うこともなく開いた。
「何してんだ、お前」
「…時計、壊しているの」
「なんで壊した?」
「煩いから」
テイルはルックに近付き、手にしていた時計の残骸をそっと取り上げた。
「なんで壊した?」
テイルは同じ質問をした。憤怒は見受けられず、淡々としている。
「煩いから」
「それだけじゃないんだろう」
「正しく刻まれる時間が、妬ましかったから」
「肉体の時間が止まっても、俺達はこの世に在り続けてるじゃねぇか」
「僕も君も、世界から排除されてる。全てのものは風化する。風化する世界の中で、僕等だけが取り残されて。僕等だけ、世界に見捨てられたみたいだ。老いることも風化する肉体もなく、枯れていくのは記憶だけ。時を刻む時計が、妬ましい」
垣間見るルックの狂気。紋章を宿して間もないテイルには、考えるしかできない。
しかし、ルックは生まれる前から宿している。彼を守り、彼を愛してやまない全ての風の源を。
「世界に認められるには、死ぬしかないってか?」
「死ねれば…いいね…うん。腐り、渇き、塵となり、この身風に運ばれて、世界に還りたい…」
「世界なんて放って置けばいいじゃねぇか。てめぇを決めるのは世界じゃなくお前自身で、世界に認知されるってのは、周りの人間が存在を知ることだろ」
「ああ…還りたいな…」
「おい…?」
風がルックを覆う。相変わらず彼の目は虚ろで、しかし口元には笑みが浮かぶ。
テイルが近付こうとするが、風に拒まれてできない。
「…消えてしまいたい…」
彼は十数年後、それを遂げることとなる。
暗いなぁ。テイルを考えてから結構初期で書いたものなので今と微妙に違うかも…