「どろけい?」

 ルックが不思議そうな顔で尋ねた。

「警察と泥棒の二手に分かれて行う、まぁ所謂鬼ごっこの系列のゲームだな」

「ああ、あれか」

「知ってるのか?なら話は早い。ゲリラ説明会をしに行こう」

 ウルはルックの手を引こうとして、いつの間にやら手にしたロッドで強かに甲を殴打された。





 二人が訪れたのは約束の石板が安置されるホール。ルックの定位置の一つと言えるその場所を陣取ってウルは声をあげる。大勢の前で話しなれたウルの声はその場にいる者全てに滞りなく響き渡った。

「えー、突然だが明日同盟軍は休日とする。イベントを開くので参加できるものは参加するように」

 本人が言うとおり唐突過ぎる休日宣言。しかもイベント。ウルの言い方だと自由参加だ。英雄様の本性を知っている幾人かはその時点で不参加を決め込んだ。

「ちなみに、一部の人間はよぉく考えてから参加するかしないかを決めることをお勧めする。酷くお勧めする。大事なことなので二回言った」

 自由参加ではなかった。

 イベント内容について詳しく話しだそうとしたところで、同盟軍盟主のヴァーリが叫んだ。見るとちょうど真上、二階の手すりから身を乗り出している。

 騒ぎを聞きつけたヴァーリがシュウを引き連れて執務室を飛び出してきたようだ。

「ウルさんなにやってんですか!勝手に明日休みでイベントだなんて!」

 ウルの後ろにいたシュウは体力不足のために息が荒い。

「まったく、です。そのように、勝手に休みなどにされては」

「そんな楽しそうなことボクに内緒で始めようだなんて駄目ですよ!」

「……ヴァーリ殿?」

「そういう面白いことはじゃんじゃんやってください!でも、絶対ボクにも一枚噛ませてください!」

「ちょ、待てヴァーリ殿」

「それで何やるんですか?仮装大会ですか?肝試しですか?天下一武道会ですか?」

「おま、何言ってr」

「ああ、今回のイベントはだな」

「今回も今後もなi」



「どろけいだ」


 シュウは尽くスルーされた。



「どろけいは警察と泥棒の2チームに分かれて行う鬼ごっこ的な、しかし知力と策略を要する遊戯だ。体力のみのごり押しという戦略も多用される。

 今回牢獄は図書館横の大木とする。泥棒は警察にタッチされた時点で逮捕とし、連行中の逃走は仲間のタッチがあっても不可だ。牢獄に入った後、逮捕されていない泥棒にタッチされることでのみ脱獄を認める。

 その他はフリーダムな感じだが、相手を眠らせる、痺れさせるなどのステータス異常は禁止。紋章や武力、薬による気絶も同じだ。」



 すらすらとルールを述べていくが、ルックはこのゲームを聞いてからそのような説明は受けていない。かといって、ウルがそれを考えていたようには思えない。

「あんた……それ言いながら考えたんじゃないの」

 呆れたようにため息をつく。

「まぁまぁ。あ!後特別ルールとして、転移は禁止とする」

「はぁ?」

「だってそうだろうルック。そんなことされては誰もルックを捕まえられないよ。…もちろん、俺はルックのハートをゲットしt」

「そうだね、確かに転移はない方がいいかもしれない。僕は誰にも捕まらないし過去未来現在捕まった記憶もないし」

「じゃあ、ルックは泥棒でウルさんは警察ですか?」

 ヴァーリに言われ、二人は顔を見合わせる。一瞬の交錯でそれは決まった。

「ああ。俺が警察」

「僕が泥棒だね。参加する人は今日の夕刻、日が沈むまでにシュウ受け付けること」

「はいはい皆さん今から受付スタートだよー」

 押しかける人の波に潰されそうになりながら、悪態の断末魔を放つシュウは完全に不本意ながら参加受付を開始した。

「なお開始はウィキペディアに則り明日の正午からとする。終了は日没まで。今回のルールを作るにあたってウィキには大変お世話になったことをここに宣言しておこう」

「そこは別に、今じゃなくてもいいと思いますけど」

「ちなみに!この遊戯の名前は「どろけい」であることを海よりも深く胸に刻みつけること。地域などによって様々な名称があるようだが、生粋のグレッグミンスターっこの俺は「どろけい」派なのでそのように決定した」

 ウルの隣で石板に背を預けていたルックが心底どうでもよさげに言う。

「僕は「けいどろ」しか知らなかったけどね」

「よって、このゲームが「けいどろ」であることを空よりも高く胸に刻みつけておくように!」

「たった今「どろけい」って……」

「うるさい!黙れ!団体行動を乱すな!生粋のルッカーであるこの俺はルックと同じ呼び方をする。したいから。ちなみに並び方は俺、ルック、俺、ルックで交互に並べるように」




「ウルさん、そろそろ自重してください」

「……正直すまんかった」






ふたつめ ―真剣勝負のゲームをしよう―






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