「そういえば」。ルックはふと思い出したとばかりに声をあげた。
「もう一つあったよ」
「……なにが?」
「君といていいところ」
ウルが最初の発言に何のことなのか分からなかったのも仕方がない。その会話が終了したのは何時間も前だ。ちなみにルックは先ほど読んでいた本を読了した。読了したから余計な思考をする余裕ができたのだった。
「俺といて心が安らぐとかだったら今すぐ押し倒すのにな」
「あ、でもちょっと似てるかも」
「なにぃっ!?」
どうせ碌なことではないと俯いていたウルは勢いよくその首を上体ごと捻った。鈍い音がしたがウルもルックも気にしなかった。
「僕と対等にゲームができるのは、楽しいね」
ぽかん、と口をあけ目を開き間抜け面をさらすウル。ルックが己に対してそのような好意を向けたことがあっただろうか。ウルの中でルックの発言は形を変え「ウルといると楽しい」という都合のいい解釈へと変化した。
「解放軍の時、どれだけ帝国に寝返ってやろうか考えていたこと、君は知らないだろう」
「え?」
「いつか君と戦争してみたかったんだ。君とやりあえるなら、赤月に膝をついてもいいかなって本気で考えた。星の絡む戦争だったから、実際無理な話だったんだけどね」
門の紋章戦争を遊戯と称す。幾万が死にいったあの戦いをもっと楽しみたかったと。
ルックがあの戦争に参加したのは師がそれを指示したからという一点に尽きる。特別な思い入れなどなく、周りに感化されるような普通の神経ではなかった。どこまでも図太い神経は流されるどころか更なる娯楽を求めていたのだった。
「……それは、星に、感謝……か?」
「そうかもね?」
「そうだな。もしルックが帝国側に寝返ってたら遊べなかったし」
「あんたも大概な性格だよね。あの状況で、まさか軍主様が引きこもって僕とチェスしてただなんて誰も思わないよ。みんな悲しみに打ちひしがれる君を憐れんでいたのに」
その翌朝、うっすらと目を腫れさせたウルを見た者たちは涙の跡として誰もそれに触れなかった。実際はチェスで徹夜したからという理由なのだが。
「もう時効時効。いいんだって、俺はきちんと仕事を果たした。みんなの前ではいい軍主様だっただろ?帝国にも勝ったし裏で何やってようがばれなきゃいいんだから」
「お堅い軍主様だったら、間違いなく僕と君、喧嘩どころか会話もなかったろうね」
それは大変いただけない、と笑いながらルックに提案する。
「そんなに俺とのゲームをお気に召しているとは知らなかった。そこでだ」
「なにさ」
「遊ぼうか。盛大に」
「………なにして?」
ルックが話題に興味を示す。続きを促すとにぃ、と口の端を吊り上げてにやりと笑った。
「どろけい」
ひとつめ ―君のために。君と一緒に。全力で。―
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